入学試験
「………」
俺は目の前にそびえ立つ巨大な建物を見上げる。
王立魔法学園。
『聖魔のブリリアント・アカデミア』の舞台。
ゲームの中で何度も見た場所だ。
まさか、自分がここに来ることになるとは思わなかった。
「アルベルト、緊張しているのか?」
隣にいる父さんが聞いてくる。
「少しだけ」
「珍しいな」
父さんが笑う。
「お前なら大丈夫だろう」
「……そうだね」
実際、ゲームの舞台に立っていると思うと少し緊張する。
ただ、試験そのものに不安があるわけじゃない。
俺には魔法、剣術、冒険者としての実戦経験があるし、試験勉強もした。
筆記試験で落ちるなんて、格好がつかない。
「じゃあ、頑張ってこい」
「うん」
父さんと別れ、試験会場へ向かう。
周囲には、俺と同じように試験を受ける受験生が大勢いた。
緊張している奴。
友達と話している奴。
自信満々な奴。
その中に――。
「…………」
俺は一人の少女を見つけた。
俺は、彼女のことを知っている。
彼女が――。
このゲームの主人公だ。
「…………」
思わず見てしまう。
ゲーム画面の中でしか見たことのなかった人物。
それが、今は目の前にいる。
「……不思議な感覚だ」
レオ・ヴィンセントと出会った時も思ったが、やはりこうして原作の登場人物を見ると、改めて実感する。
ここが、あのゲームの世界なのだと。
「受験番号〇〇番の方、試験会場へ入ってください!」
係員の声が響く。
俺は会場へ入る。
◇◇◇
最初は筆記試験。
内容は魔法理論。
魔法史。
魔物に関する知識。
そして、簡単な貴族社会の知識だ。
俺は問題を見ていく。
「…………」
……思ったより難しい。
体感だが、過去問より難化している。
しかしそれでも、俺は一年間勉強してきた。
分かる問題から順番に解いていこう。
そして――。
最後の問題まで解き終える。
「……まあこんなものか」
あまり自信は無いが、たぶん大丈夫だ。
次は実技試験。
ここで取り返していこう。
◇◇◇
「次の受験生」
試験官が名前を呼ぶ。
「アルベルト・ヴァレンシュタイン」
「はい」
俺は立ち上がり、試験場へ向かう。
広い訓練場。
中央には魔法の試験用に用意された標的がいくつも並んでいる。
試験官が説明を始める。
「これより魔法実技試験を行う」
「基本魔法から中位魔法まで、こちらの指定に従って使用してもらう」
「魔法の威力だけではなく、制御力、発動速度なども評価対象となる」
「分かりました」
俺は頷く。
そして、発動速度という言葉を聞いて、少しだけ意識する。
――術式の最適化。
父さんが研究している技術。
暗殺者相手に使用したものだ。
これを使えば、確実に高い評価を取れるだろう。
しかし――。
「…………」
使う気はない。
術式の最適化は、父さんの研究を応用して生み出した、俺だけの戦い方。
これを見せれば、確実に面倒なことになる。
だが、手を抜く気はない。
俺には目的があるからだ。
それは、Aクラスに入ること。
王立魔法学園では、入試の成績によってクラスが分けられる。
そして原作の主要人物たちは、Aクラスに集まる。
なら――。
俺もそこに入る。
理由は単純だ。
原作の登場人物たちを、できるだけ近くで見ておきたい。
俺が暗殺者を退けたことで、敵勢力が原作とは違う動きをする可能性があるからだ。
「では、始めろ」
試験官の声が響く。
俺は杖を構える。
まずは初級魔法。
「――火球」
小さな炎が飛び、標的の中心を撃ち抜く。
続いて風。
水。
土。
指定された魔法を一つずつ使っていく。
あくまで普通の魔法。
それでも――。
「…………」
試験官たちの表情が少しずつ変わっていく。
「次、中位魔法」
「はい」
難易度が上がる。
俺は魔力を集中させる。
術式を構築。
いつも通りの方法で魔法を完成させる。
「――炎弾」
轟音とともに炎が飛ぶ。
標的が大きく爆発する。
「……よし」
俺は杖を下ろす。
試験官が記録を確認している。
「次、複数同時発動」
「分かりました」
さらに難易度が上がる。
俺は三つの標的を見る。
魔力を分け、術式を一つずつ構築。
「――火球」
三つの炎が同時に飛ぶ。
すべての標的の中心に命中した。
「…………」
試験官が黙っている。
「以上だ」
「ありがとうございました」
俺は一礼して試験場を出る。
◇◇◇
すべての試験が終わった。
俺は学園の門へ向かって歩いていた。
「…………」
ようやく終わった。
今日は疲れたな。
早く帰って――。
「君」
「……?」
後ろから声がした。
聞き覚えのある声。
俺は振り返る。
そこに立っていたのは――。
「……レオ先輩?」
レオ・ヴィンセント。
原作の攻略対象の一人。
俺が十歳の頃、研究施設で出会った人物だ。
「覚えていてくれたか」
「もちろん」
忘れるわけがない。
攻略対象の中で、俺が唯一話したことのある人物だ。
「少し話さないか?」
「はい」
俺は頷いた。




