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少し遠くへ

 「……ふっ!」


 剣を振る。


 「はっ!」


 もう一度。


 「……ふう」

 「こんなものか」


 俺は剣を下ろし、額の汗を拭う。

 三年前から、俺は魔法と共に剣術の自主練を続けていた。


 「アルベルト」


 「ん?」


 声が聞こえて振り返る。

 父さんが立っていた。


 「今日もやっていたのか」


 「うん」


 「熱心だな」


 父さんが苦笑する。


 「実はアルベルトに伝えなきゃいけないことがあってな」

 「父さんは明日から、少し遠くへ行くことになったんだ」


 「……どこに?」


 「王都の外にある研究施設だ。少し調べたいことがあってな」


 その言葉を聞いた瞬間。

 俺は動きを止めた。


 「……いつ帰ってくるの?」


 「…数日後かな」


 研究施設に、数日。

 その言葉を聞いて、頭の中で何かが繋がった。

 父さんが王都を離れる。


 俺は知っている。

 原作で父さんが殺されるのは、俺が十歳になってすぐ。


 そして、父さんが殺された場所は――。


 王都の外だった。


 「父さん」


 「ん?」


 「俺も行っていい?」


 父さんが目を丸くする。


 「……ついてくるのか?」


 「うん!」


 即答だった。


 「いや、何も面白いものはないと思うぞ?」


 「ううん、父さんの研究を見てみたいんだ」


 父さんを一人で行かせるわけには行かない。

 絶対についていく。


 「……うーん」


 父さんは腕を組んで考える。


 「母さんはどうする?」


 「私なら大丈夫よ」


 いつの間にか、母さんが後ろに立っていた。


 「アルベルトがここまで興味を持っているんですもの」

 「連れていってあげれば?」


 「しかし……」


 「アルベルトは賢い子よ。」


 「ね?アルベルト」


 母さんが俺を見る。


 「もちろん」


 俺は胸を張る。

 父さんが少し困ったように笑った。


 「分かった。ただし、絶対に勝手な行動をするなよ」


 「うん!」


 こうして――。

 俺は父さんと一緒に研究施設へ向かうことになった。


◇◇◇


 翌朝、俺は馬車に乗り込む。

 馬車には父さんと俺、そして数人の護衛がいた。


 「本当に良かったのか?」


 父さんが聞いてくる。


 「うん」


 俺は窓の外を見る。

 王都の景色が少しずつ遠ざかっていく。

 ここまでは予定通り。

 あとは――。


 父さんを守る。

 それだけだ。


 「アルベルト」


 「何?」


 「そんなに緊張しなくても大丈夫だぞ」


 「……してないよ」


 「そうか?」


 父さんが笑う。

 …原作では、ここで父さんが殺される。

 なら、何かが起こる。

 絶対に。


 ――しばらく馬車を走らせた頃。

 街道沿いに、大きな建物が見えてきた。


 研究施設。

 その周辺には、他の馬車が何台も止まっていた。


 「ずいぶん人が多いな」


 父さんが呟く。


 「今日は魔法学園の生徒も来てるらしいぞ」


 「魔法学園?」


 そう言われて、俺は研究施設の前に集まっている生徒たちを見る。

 その中に――。

 一人だけ、見覚えのある人物がいた。


 「……嘘だろ」


 王立魔法学園の生徒。

 そして、そこにいるのは――。


 学園最強の魔法使い。

 レオ・ヴィンセント


 彼は、学園の先輩キャラ。

 学園入学時、主人公は彼に助けられ憧れる。

 

 しかし、今はまだ本編が始まる前。

 原作では、俺が彼と出会うことなんて絶対にない。

 なのに。


 「アルベルト?」


 父さんが俺を見る。


 「どうした?」


 俺は答えられなかった。

 ただ、彼を見つめる。

 原作では交わるはずのなかった俺と、攻略対象たち。


 それが今――。

 同じ場所にいる。


 「……そうか」


 俺は、原作の世界にいる。

 そして――。

 原作では、絶対に起こらなかった出会いが始まった。

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