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十歳の誕生日

 ――それから、三年が経った。


 「……よし」


 俺は目の前に浮かぶ炎を見つめる。

 十歳になった今では、初級魔法なら問題なく使えるようになった。


 「……凄いな」


 後ろから声がする。

 振り返ると、父さんがいた。


 「本当?」


 「ああ。かなり安定している」


 父さんは俺の炎を見る。


 「最初の頃とは大違いだな」

 「もう父さんが教えられることはないかもしれないな」


 「そんなことないでしょ」

 「父さんはもっと高位の魔法も研究してるし」


 「私は研究者だからな」


 父さんが苦笑する。

 ヴァレンシュタイン家は、王国の魔法研究を支える家だ。

 父さんも母さんも優秀な研究者。

 ただし――。

 戦いが得意なわけではない。

 おそらく実戦となれば俺の方が上だろう。


 「今日は誕生日なんだから、訓練はそこまでにしておけ」


 「分かってる」


 今日は十歳の誕生日。

 俺の誕生会が開かれる日だ。

 公爵家ということもあり、屋敷には多くの人が訪れていた。


 「アルベルト様、本日はお誕生日おめでとうございます」


 次々と挨拶を受ける。

 俺も笑顔で返す。


 「ありがとうございます」


 こういう場は、正直少し疲れる。

 でも、嫌いではない。

 ゲームにも出てくるキャラクター達がいるからだ。


 王都でも名の知れた貴族たち。

 魔法研究に関わる者たち。

 そして――。


 「お久しぶりです。ヴァレンシュタイン公爵」


 「これはこれは、グランディス子爵。今日はわざわざありがとうございます」


 ――グランディス子爵。


 その名前を聞いた瞬間。

 俺の表情がわずかに固まった。

 彼は、原作に登場する貴族。

 そして――。


 ヴァレンシュタイン家が潰れる原因を作った家。


 「…………」


 まさかこんなところで会うとは思わなかった。

 原作では、俺が十歳になってすぐ、父さんが殺される。

 その後、グランディス家は父さんに反逆の疑いがあったと王家へ訴える。

 証拠も用意される。

 当然、それだけなら簡単には信じてもらえない。

 けれど――。


 原作では、父さんはもういない。

 反論する人間がいないのだ。

 そしてヴァレンシュタイン家は――。


 「……アルベルト様」


 「……え?」


 気づけば、子爵が俺の前に立っていた。


 「お誕生日おめでとうございます」


 「ありがとうございます」


 俺は笑顔で答える。

 子爵も笑っている。

 穏やかな笑顔。

 少なくとも、表面上は。


 「ヴァレンシュタイン公爵家の跡取りともなれば、将来が楽しみですな」


 「ありがとうございます」


 「ところで――」


 子爵の視線が、俺の持っている杖へ向く。

 今日、父さんからもらったものだ。


 「魔法の勉強を?」


 「はい」


 「さすがですな。しっかりとヴァレンシュタイン家の血を引いている」


 そう言って笑う。


 でも。

 何かがおかしい。

 視線。

 言葉。

 そして――。


 「お父上の研究も、さぞ素晴らしいのでしょうな」


 「……そうですね」


 「特に最近は、面白い研究をされていると聞きます」


 心臓が一瞬だけ跳ねた。


 「……父さんの研究?」


 「ええ」


 子爵は笑っている。


 「いや、失礼。まだ十歳の坊ちゃんに聞くような話ではありませんな」


 「…………」


 俺も笑顔を返す。

 けれど、頭の中では別のことを考えていた。

 やはりこいつ、かなり知っている。

 原作では、父さんの研究成果が狙われていた。

 そして、それを利用しようとしていたのが――。


 「アルベルト」


 父さんの声が聞こえた。


 「そろそろ次の方に挨拶をしよう」


 「うん」


 俺は子爵から離れる。

 俺は子爵を見る

 そして、ほんの一瞬。

 子爵と目が合った。


 「…………」


 俺は父さんの隣に戻る。

 大丈夫。

 まだ何も起きていない。

 原作を知っている俺なら、未来を変えられる。


 十歳の誕生日。

 原作では、この日を境にアルベルトの人生が壊れ始めた。


 なら俺は――。


 その運命を変えてやる。

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