俺に魔法を教えてほしい
「俺に……魔法を教えてほしいんだ」
そう言うと、父さんは少しだけ目を丸くした。
「魔法を?」
「うん」
「急にどうしたんだ?」
当然の反応だ。
記憶では、昨日までの俺――アルベルトは、魔法にあまり興味がなかった。
だから父さんからすれば、突然息子が魔法を教えてほしいと言い出した状態だ。
「魔法を使ってみたいんだ」
俺はそう答えた。
未来を変えるために強くなりたい。
そんな本当の理由を話すわけにはいかないからだ。
父さんは少し考える。
そして――。
「……分かった」
そう言って笑った。
「アルベルトがそこまで言うなら、教えよう」
「本当?」
「ああ。ただし、魔法は簡単なものじゃないぞ」
「分かってる」
父さんが苦笑する。
「魔法には、魔力という源が必要なんだ。魔法を使うには、その魔力を感じ、制御し、術式に沿って変化させる必要がある」
「じゃあまずは、魔力を感じるところからか……」
「そうだ」
そう言って父さんは机の上から一枚の紙を取り出した。
そこには複雑な模様が描かれている。
「この紙を持って集中してみろ」
「魔力を見つけられたら、赤く光るはずだ」
父さんは俺に紙を渡す。
俺は紙を見る。
正直に言えば、よく分からない。
でも――。
やってみるしかない。
「どうすればいい?」
「まずは目を閉じて、体の中を流れているものを探してみろ」
俺は言われた通りに目を閉じる。
呼吸を整え、体の中に意識を向ける。
集中。
「……………」
「……………」
少しだけ、感じる。
俺の体の中に流れている、何かを。
「ん?」
父さんの声が変わった。
「何か感じたのか?」
「うん。小さいけど、何かが動いてる」
「…………」
目を開ける。
紙を見ると、少しだけ赤くなって光っていた。
「…驚いたな」
父さんは俺をみる。
「普通は魔力を感じるだけでも、何日もかかるんだぞ」
「そうなの?」
「ああ」
「もしかすると、アルベルトには魔法の才能があるのかもな」
その言葉に、俺は少しだけ嬉しくなった。
けれど――。
「才能だけ」では足りない。
未来を変えるためには、もっと力が必要なんだ。
魔力を感じられた程度で喜んでいる場合じゃない。
「ありがとう」
「父さん、次を教えて」
「次?」
「うん。もっと教えて」
父さんが少し驚いた顔をする。
「今日はここまでにしてもいいんだぞ?」
「いや、まだできる」
俺は自分の手を見る。
今の俺じゃまだ何もできない。
でも――。
時間はある。
「もっと強くなりたいんだ」
自然と口から言葉が出た。
父さんは黙って俺を見る。
「……そうか」
それ以上は何も聞いてこなかった。
その日は、夜なるまで訓練を続けた。
魔力を感じ、制御し、変化させる。
ゲームだとボタンひとつで発動できた魔法も、実際にやってみると難しい。
一通りの訓練をやり終え、研究室を出ようとしたところで、俺は父さんに呼び止められた。
「アルベルト」
「何?」
「魔法が好きなのか?」
少しだけ考える。
「……うん」
今は、そう答えておこう。
父さんは嬉しそうに笑った。
「そうか」
その顔を見て心が少し痛くなる。
父さんは知らない。
俺が魔法を学ぶ理由を。
俺が強くならなければならない理由を。
俺は研究室を出る。
まだ、始まったばかりだ。
でも、俺は絶対に強くなる。
原作とは違う未来を掴むために。




