俺自身の学園生活
「頑張ってこいよ、アルベルト」
玄関先で、父さんが俺の肩を叩いた。
「うん。行ってくる」
隣では、母さんが少し寂しそうな顔をしている。
「いつでも帰ってきていいからね」
「いや、別に遠くへ行くわけじゃないんだけど……」
ここから王立魔法学園までは、あまり離れていない。
頑張れば歩いていくこともできる。
俺としても、休日になれば帰るつもりだし、手紙も送るつもりだ。
「学園では、無理をしすぎないようにね」
「分かってるよ」
「食事もちゃんと取るんだぞ」
「分かってるって」
「知らない人についていったり――」
「しつこい」
そんなやり取りを一通り行い、俺は学園に向かう。
遠くなる両親を見つめ、俺は思う。
原作では、俺はこの家を失う。
父さんも、母さんも。
だからこそ、今こうして二人に見送られていることが、少しだけ特別に感じられた。
俺は柄にもなく、二人に大きく手を振る。
「行ってくるー!!」
「いってらっしゃい!」
「頑張ってこいよ!」
俺は二人の姿が見えなくなるまで、手を振り続けた。
◇◇◇
王立魔法学園。
原作の舞台となる場所。
ゲームの中では、攻略対象たちとヒロインが出会い、様々な事件を乗り越えていく。
そして本来なら、俺はその物語の中に存在しない。
だが――。
「……来たか」
目の前にそびえ立つ学園の門を見上げ、俺は小さく呟いた。
広い敷地、立派な校舎、その奥には魔法の訓練場や研究施設まである。
ここが、王国最高峰の魔法学園。
周囲には、俺と同じように入学式へ向かう新入生たちが集まっている。
俺は新入生たちの流れに混ざり、式典会場へ向かった。
◇◇◇
入学式が始まると、壇上へ一人の少年が歩いてきた。
ユリウス・アストレア。
王子であり、入試成績一位。
ユリウスは壇上に立つと、落ち着いた声で話し始めた。
「新入生の皆、入学おめでとう」
「この学園で学ぶ三年間は、皆にとって大きな意味を持つことになるだろう。魔法を高める者もいれば、剣術を高める者もいる。あるいは、まったく違う道に進む者もいるかもしれない」
ユリウスは、会場全体を見渡す。
「だが、焦る必要はない。ここで得た知識と出会いを大切にし、自分自身の可能性を見つけてほしい」
……思ったより、普通の挨拶だな。
原作では、こんなシーンはなかった。
なのでもっと王子らしく、壮大なことを言うのかと思っていた。
「私もまた、この学園で多くを学ぶつもりだ。皆さんと共に成長できることを楽しみにしている」
そう言って、ユリウスは一礼した。
会場から拍手が起こる。
俺も周囲に合わせて手を叩いた。
その時だった。
「アルベルトさん」
横から、聞き覚えのある声がした。
「……ん?」
振り向くと、そこには一人の少女が座っていた。
「やっぱり、アルベルトさんですよね」
「……ルリナ?」
「はい。お久しぶりです」
ルリナ・フォレスト。
原作の主人公。
そして、俺が少し前に助けた人物だ。
まさか、こんなところで会うとは思わなかった。
「そういえば、入試の成績見ました」
「成績?」
「はい。アルベルトさん、二位でしたね」
「ああ……まあ、そうだな」
「すごいです。王子殿下に次ぐ成績なんて」
ルリナは、熱い眼差しを俺に注ぐ。
……やっぱり、二位というのは思った以上に目立つらしい。
「ルリナも六位だったな」
「覚えていてくれたんですか?」
「嬉しいです」
ルリナは、にこっと笑った。
「これから同じクラスですね」
「そうだな」
「改めてクラスメイトとして、よろしくお願いします」
「ああ。こちらこそ、よろしく」
俺たちは軽く頭を下げ合った。
……こうして見ると、本当に原作の主人公と攻略対象のようだ。
まあ、俺はただの中ボスだけど。
「式典も終わりましたし、教室にいきましょう」
「そうだな」
俺たちは並んで、教室へ向かって歩き始める。
少しだけ不思議な感覚だった。
◇◇◇
「ここが、Aクラスですね」
ルリナが教室の前で足を止めた。
俺は扉の上にある札を見る。
Aクラス。
原作の主要人物たちが集まる場所。
「…入るか」
「はい」
俺が扉を開けると、教室の中にはすでに多くの生徒が集まっていた。
ユリウス・アストレア。
アーサー・グレイヴス。
ウィリアム・エヴァレット。
クライヴ・レインハルト。
原作の攻略対象たちが勢ぞろいだ。
『聖魔のブリリアントアカデミア』の物語は、ここから始まる。
これから何が起こるのか。
俺がいることで、どこまで未来が変わるのか。
まだ分からない。
でも、一つだけ確かなことがある。
この舞台で、原作にはなかった俺自身の学園生活が始まる。
そして、未来を変えるための、本当の戦いも。




