やることは一つ
「…原作イベントが変わってる」
そんなことを考えている間にも、時間は進んでいる。
少女が杖を振る。
放たれた炎が魔物へ向かって飛んでいく。
しかし――。
魔物はそれを避けた。
「きゃっ!」
少女が尻餅をつく。
魔物が少女へ近づいていく。
「……まずい」
考えている暇はない。
俺は腰の剣に手を伸ばし、そして――。
「そこを動くな!」
俺は少女と魔物の方へ飛び込んだ。
「えっ……?」
少女が驚いた声を上げる。
魔物がこっちへ振り返る。
「……遅い!」
俺は剣を振り、魔物を一刀で倒した。
「……っ!」
魔物が倒れる。
剣を下ろし、後ろを見る。
少女はまだ座り込んでいた。
「大丈夫か?」
「あ……はい」
少女は慌てて立ち上がる。
「ありがとうございます……!」
「怪我は?」
「大丈夫です」
見たところ、本当に大きな怪我はないらしい。
「ならよかった」
俺は剣を収める。
「本当にありがとうございました」
「私、ルリナ・フォレストと言います」
…やっぱり、この少女は間違いない。
この世界の主人公、ルリナ・フォレスト。
平民出身でありながら高い魔力を持ち、特待生として学園へ入学する。
そして物語の中で、様々な攻略対象と出会っていく。
本来その最初の一人が、レオ・ヴィンセントだ。
「…………」
俺は少女を見る。
原作では、ここでレオ先輩が現れ、魔物を倒し、彼女を助ける。
そして二人が出会う。
それが、このゲームの最初のイベントだった。
「……どうかしましたか?」
「ああ、いや、なんでもない」
「俺は、アルベルト・ヴァレンシュタインだ」
「ヴァレンシュタイン……?」
ルリナが目を丸くする。
まあ、そうなるよな。
ヴァレンシュタイン家は、この国ではそれなりに有名な家だからな。
「もしかして、貴族の方ですか?」
「一応な」
「そうだったんですね……」
ルリナは少し緊張したように姿勢を正す。
「そんなに畏まらなくていい」
「え?」
「見たところ、君もこれから学園に入るんだろ?」
「なら、身分なんて関係ない」
「……はい!」
ルリナの表情が柔らかくなる。
「実は…今日入学試験だったんです」
「そうか」
やっぱり同じだ。
原作と同じ時間。
原作と同じ場所。
そして――。
原作と同じ主人公。
違うのは、ここにいるのがレオ先輩ではなく、俺だということ。
「……アルベルトさんも、今日試験を?」
「ああ」
「なら、もしかしたら同級生になれるかもしれませんね」
「そうだな」
俺は頷く。
「もしそうなったら、よろしくな」
「はい!」
その返事を聞き、俺は歩き出す。
「じゃあ、気をつけて帰れよ」
「はい!」
少し歩いてから、俺は一度だけ振り返る。
ルリナはまだこちらを見ていた。
◇◇◇
「………やばい」
街道を歩きながら、俺は考える。
原作では、あそこでレオ先輩とルリナが出会った。
でも、今回は違う。
レオ先輩が俺と話をしたことで、あの場所に行く未来が変わってしまった。
そして俺が、ルリナを助けた。
「…………」
俺は原作を知っている。
だからこそ分かる。
これは小さな違いじゃない。
ルリナがここでレオ先輩に憧れるのは、今後にとってかなり大事なことだ。
「……どうする?」
俺は空を見上げる。
最初は、できるだけ原作通りに進めるつもりだった。
父さんが死亡し、ヴァレンシュタイン家が取り潰しになる。
その未来だけを変える予定だった。
ラスボス側の動きだけ気をつけて、ただのアルベルトとして生活するつもりだった。
けれど――。
「……もう、無理なのかもしれない」
俺の存在そのものが、原作を変えるきっかけになった。
ならこれから先も、原作通りに進む保証なんてどこにもない。
「……なら、やることは一つだ」
俺は前を向く。
変わってしまったのなら、その変化に合わせればいい。
俺には、まだ原作の知識がある。
それを使って、導くんだ。
ハッピーエンドの――未来に。




