表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シンデレラ・ダイス  作者: 羊宮 玲(旧 羊)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/15

キャスの決断

「殿下、キャスリー様他、ご家族の方々がおいでになっております」


 たたたっと足音が近付いてくる。 

 そしてドアがガチャっと開いた。

 王子は顔を突き出すや、先頭に立っている義母とメイリーを器用に避け、キャスだけを見つめて笑み崩れた。


「こんなにすぐに会えるなんて! やはり二人は運命で結ばれている。ちょうど今、迎えを出そうと思っていたところだよ。さあ、入って」


 部屋に入ると、ドアの側におばちゃんが立っていた。キャスと目が合うと、小さく親指を立てた。

 キャスはドアの前に執事と一緒に立ち止まり、メイリーと王子の様子を眺めることにした。

 メイリーは嬉しそうに美しい王子の方に歩み寄る。


 振り返った王子は、メイリーに手を差し伸べてから少し何か考え、ドアの前に控え目に立っているキャスに目を向けた。


「これはどういうことだい? もしかしてキャスリーン嬢の姉君?」


 ここで、義母が前に出た。


「殿下。私の次女の、メイリーと申します。年は十七歳です。そしてもちろん女性です」


 王子はメイリーに少し近付くと、全身を眺めまわした。

 それからパッと表情を明るくした。


「完璧です。思った通りですよ」


 そう言いながら、義母の前に立った。

 義母もメイリーもニコニコしている。キャスもほっとして三人を見守った。


「先ほどはありがとう。つきましてはキャスリーン嬢を、こちらの宮殿に引き取りたいのですが、いかがでしょうか。もしお望みなら、ご家族も一緒にこちらに引っ越していただいても構いません」


 義母は目を白黒させている。


「殿下? キャスリーより、女性のメイリーの方が、条件に合うのでは……」


 王子は爽やかににっこりと微笑む。


「私が恋したのはキャスリーン嬢で、メイリー嬢ではありません。そこはお間違いなく。キャスリーン嬢が女性になったら、こうなるのですね。嬉しい限りです」


 キャスの体がぴくんと跳ね、釣られたのか横に立つ執事もぴくんと揺れた。

 横を向くと、おばちゃんが静かに王子たちの方に向かっていた。

 

「王子殿下、キャスリーに説明しないといけないのでは? まだ彼は何も知りませんから」


 あ、そうか、とおばちゃんを見た。キャスは何も知らない設定なのだ。

 あの魔術師は、「通りすがりの親切な魔術師」で、おばちゃんではないのだから。


 顔を上げると目の前に王子が立っていた。

 そして勝手に手を握る。また横に立つ執事の顔を見てしまった。


「キャスリーン嬢、実はお母さまと話をして、あなたとの婚約を結ばせていただきました。これからよろしくお願いします」


 簡潔だ。簡潔すぎて実もふたもない。不都合なあれこれを、完全にすっ飛ばした説明だ。

 んー。何となくイラっとするのは何だろう。

 考えるだけ無駄な気がしたので、提案した。


「僕は女になる気が無いので、メイリーを選ぶのが正しいと思いますが、どうでしょうか」


「私が好きなのは君だ。容姿が似ているからと、取り換えられるものではないよ」


「たった一回踊って散歩しただけです。ほぼ見た目だけで選んでいると思うのですけど、違いますか?」


 王子はキャスの前から離れ、メイリーに声を掛けた。


「メイリー嬢、こちらへ」


 近寄ってくるメイリーに手を差し伸べると、おばちゃんの方を向いてパチッと指を鳴らした。


「音楽を頼む」


 すぐさまワルツが流れ、王子とメイリーは踊り始めた。

 メイリーはガチョウのようにバタバタと踊り、一曲踊る間に王子の足を七回踏んでいた。

 自分の姿でそれをやられると、目を覆いたくなる。


「では、キャスリーン嬢」


 王子はキャスの手を取ると、そのまま続けて踊り始めた。

 あまりにメイリーのダンスが酷くて、申し訳ない気分になっていたので、何となくその手を無視できなかった。

 一曲踊り終わると、周囲から拍手が湧いた。


「素敵、キャスってダンス上手ね」とキンバリー。

 義母とメイリー、おばちゃんと執事も喜んでいる。メイリーには全く反省の色がない。少しは何か考えた方がいいと思うのだが。


 キャスは王子のエスコートがうまいので、つい真面目に踊ってしまった。そう言えば、この王子はさすが王子様で、ダンスが上手だ。

 キャスは小さい頃にダンスを習っている。そして少し前まで、シリーのダンスの練習に付き合っていた。

 彼はああ見えて、子爵家の次男なのだ。

 ダンスが苦手で、練習に付き合ってくれと泣き付かれ、女性パートを務めてやっていたおかげで、女性側も踊れるようになっている。


「これでわかっていただけましたか? 私がキャスリーン嬢を選んだのは、こういう全てが気に入ったからです」

 

 そう言って、キャスに左肘を差し出し、綺麗にエスコートした。


「ダンスや立ち居振る舞いの美しさ、目の輝き、そして立っているだけで見て取れる気品。容姿も含めた佇まいに惹かれたのです」


 凄く褒められた。

 褒められて悪い気はしないけど、その結果が、はた迷惑なごり押しなのがいただけない。


 舞踏会で、もう少し王子が早くやってきて、キャスが片っ端から料理を試しているのに出くわしたら、こんなことは起こらなかったのに。それが残念でならない。


「じゃあ、そういうことで」


 王子が軽い感じで締めくくった。


「お待ちください。僕は認めません。全く全然です。前に言ったように後三年もしたら僕は恰好のいい男になります。きっと筋骨隆々としたマッチョになるはずです」


 キャスが言うと、義母は目を上に上げて何か考えている。多分父の容姿を思い出しているのだろう。我が家系は細マッチョ系なのだ。

 言うなよ、と念を送りつつ、話を続けた。


「ムキムキになった僕を見て、今と同じ気分にはなれないと思います。後一か月したら急に男っぽくなるかもしれない。その時はどうしますか?」


 王子はなぜか、嬉しそうに笑った。

 嫌な感じだ。何を言い出す気だろう。


「ムキムキのマッチョが女性になったら、非常にグラマラスな女性になりそうだね。それは大歓迎だ」


 このスケベ野郎。

 ――と思ったけど、おばちゃんは俺を上から下まで見てから、「あー、うーん」と声を出し、何か納得しているようだ。


「僕はそもそも女になる気がありません。それだと、殿下はいつまでたっても妃を迎えられませんよ。それでいいのですか?」


「頑張って君を口説くさ。よろしくね、キャスリーン嬢」


 うわっ、軽い! と言うか、究極のプラス思考。

 万策尽きた。ついに、賭けを持ち出すしかないようだ。

 俺はおばちゃんに向かってうなずいて見せた。


「それならば賭けをしましょう。それに負けたら、潔く女になって妃になります。勝ったらこの話は無し。それでどうでしょうか」


 王子は目を見張り、嬉しそうにほほ笑んだ。


「嬉しいね。では、何を賭けようか?」


「急には、何も思いつかないのですが」


 そこにメイリーが口を出してきた。


「さいころで決めたらいいわ。早いでしょ」


 ぎょっとした。それは早いだろうけど……

 人生をさいころに賭けるのか? 

 メイリーはキャスの表情を見て少し考え、唇に手を当てた。それから、またサラッと言う。


「嫌ならポーカーとか? くじ引きっていう手もあるわよ」


 

 


夏休み終了です。

明日、あさっては同じく20時更新ですが、基本的にここから先は不定期更新になります。

時々覗いてもらえると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ