キャスそっくりになったメイリー
そんなメイリーに、おばちゃんが確認した。
「自分でそれを望むのね。変身したら戻せないけどいいわね」
「もちろんよ。キャスのような美人にしてくれるのでしょう?」
おばちゃんがふうっと息を吐いた。
「そうね、美人にしてあげるって言われて断るほうが少ないわよね。ところでキャスのようなって、具体的にどんな風になりたいの?」
メイリーは身を乗り出した。
「キャスみたいにほっそりしていて、金色の髪で、キャスみたいなキラキラした顔。キャスを女にしたような風に変身させて」
おばちゃんと俺とキンバリーは顔を見合わせた。
キンバリーが代表で彼女に問う。
「あなた、自分の元の姿を捨てる気?」
「だってキャスの容姿に憧れていたんだもの。どうせならキャスの女性版になりたいわ」
もう一回三人で顔を見合わせたが、女性二人はキャスを見て唸っている。
キンバリーが確認した。
「後悔しないのね」
「絶対にしない」
おばちゃんは頭を振って、「まあ気持ちはわかるけどさ。いい度胸だね」と言うと、メイリーの前に立った。
「変身の呪文を唱えるよ。止めるなら今のうちに言いなさいよ」
メイリーは目を輝かせておばちゃんを見ている。全く止める気は無さそうだ。
「じゃあ、行くよ」
おばちゃんは、口の中で何ごとか唱え始めた。言葉はわからない。
メイリーの周囲に靄が現れ、それが彼女を包み込み、しばらくして消えた。
そこに立っているのはキャスだった。でも体型はキャスと違って、女らしい曲線を描いている。
キンバリーとキャスはびっくりしてその姿を見つめた。
メイリーが元のままの声で、「ねえ、終わったの? 何か変わった?」と聞く。
キンバリーが手を引いて、姿見の前に連れて行く。
姿見を覗き込んだ途端に、メイリーは「キャーッ」と叫んだ。
「まあ、これが私? まるでキャスそのものね。素敵」
キンバリーは、はしゃぐメイリーを見ながら、おばちゃんに尋ねた。
「これって、このままなの? 年を取ったらどうなるの?」
「このままよ。今のこの状態から、普通に年齢を加えていくのよ。お得でしょ」
キンバリーは腕を組んでメイリーを睨んでいる。その横にキャスは立った。
「キンバリー姉さんはいいの? 美人になれるよ」
キンバリーは疑い深そうにキャスを見る。
「それで、なぜこんなことを私たちに勧めるの? 理由を説明して」
やっぱりキンバリーは騙せない。メイリーは簡単に乗ってきて逆に引いたが、同じ姉妹で何でこんなに違うのだろう。キャスはしぶしぶ現状を伝えた。
「おばちゃんの情報によると、僕は王子と婚約したらしいんだ。母上が王宮で婚約の書類にサインしたらしい。それで王子に他の女性を紹介して、考え直してもらおうと思ったんだ」
キンバリーが横目でメイリーを見てから、「あの子を身代わりにする気?」と言った。
「違うよ。僕は男だし、女になる気はない。女になって、王子と結婚? 冗談じゃない。
そしてキンバリーたちは結婚相手を探している。互いの立場を交換出来たらと思ってさ」
おばちゃんが、「キャスの計画に賛成。ここにいるのは結婚したい人と、したくない人。お互いに都合がいいんじゃないの?」と追加した。
キンバリーが腕組みを解いた。
「私はいいわ。実はね、舞踏会で知り合った方と手紙のやり取りを始めているの。彼は今の私でいいみたいよ。だから……今の私をもう少しだけ綺麗にしてもらえると嬉しいわ」
おばちゃんがニコニコしながら、「賢い選択ね。よおし、腕を振るっちゃうわよ」
そう言うと、また呪文を唱えた。
靄が晴れた後に現れたキンバリーは、ほぼ元のままだけど、元より二割増しは美人になっていた。
姿見の前で、キンバリーが声を失っている。
「さあ、二人共ちゃんと聞いてね。この魔法は非常に難しいの。今回のこれはキャスの危機を救うために、無理をして行ったのよ。二度とできないと思ってね。そして他言無用よ」
そう言ったおばちゃんの袖をキャスは引っ張り、部屋の隅に連れて行った。
「キンバリーはともかくメイリーは口が軽いよ。大丈夫かな?」
「大丈夫よ。この魔法の事は口にできないようにしてあるの。そうしないと気軽に、『友達にもやってあげて』とか言ってぞろぞろ引き連れてくるからね」
おばちゃんの過去の苦労が垣間見えた。
「じゃあ、これでメイリーを王子に紹介したら、万事うまくまとまるね」
「多分ね」
三人はそのまま王宮に向かうことにした。おばちゃんは先に行って待っていると言う。
その時にこっそりとキャスに耳打ちした。
「二人には、私の姿が別人に見えていたので、王宮で会ってもわからないはずよ」
「了解」
王宮に馬車が付き、宮殿に踏み入れると、そこに義母がいた。
満面の微笑みを浮かべ、ご機嫌な様子で少し前を歩く侍従に話しかけている。
それがキャスたち三人の姿を目に留めると、ぎょっとしたように立ち止まった。
義母の目はせわしなくキャスとメイリーの間を行き来する。そしてキンバリーに目を止めると、そこで釘付けになる。
「何? キャスはいつものキャスよね。キンバリーは化粧方法を変えたの? もう一人は誰?」
メイリーが義母に駆け寄った。
「お母様、私はメイリーよ。親切な魔法使いにキャスそっくりに変えてもらったの」
義母は嬉しそうにそう言うメイリーの両肩を押さえ、穴のあくほどその顔を見ている。
「そっくりじゃないの。どうして?」
キャスは義母の前に進み出た。
「僕は王子から結婚を申し込まれました。僕を女性だと思っていらっしゃったようです。それでお断りしたのですが、罪悪感を感じていました。そうしたら通りすがりの魔法使いが、『もっと美人を紹介してあげたらどうだ』と知恵を授けてくれました」
そこまで話したら、メイリーが割り込んできて続きを話してくれた。
「どうせなら、キャスそっくりにしてって私が頼んだの。ずっと憧れていたんですもの。そうしたら本当にそっくりになったわ。最高」
義母はキャスとメイリーを交互に見ている。
キャスはそんな義母に噛んで含めるように話した。
「キンバリーにも勧めたのですが、もう間に合っているそうです」
そう言って、義母の反応を待った。
義母はゆっくりとキンバリーを見る。キンバリーが片目をつぶって見せると、両手を握りしめガッツポーズをした。
「じゃあ、キンバリーは嫁ぎ先が決まり、キャスそっくりになったメイリーは、王子と婚約するってわけね。なんてことでしょう」
次第に声が高くなっていき、そこで侍従に「お静かに」と注意を受けた。
義母はハッとしたように態度を取り繕った。
それから、「では、もう一度王子に会いに行かなくては。今すぐによ」と侍従に言う。
侍従は戸惑いながらも、「ではこちらへ」と全員を促した。
先頭が侍従、その後ろに義母とメイリー、その後ろにキンバリーとキャスが続き、王子の部屋に向かって行った。




