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シンデレラ・ダイス  作者: 羊宮 玲(旧 羊)


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12/15

誓約書の内容

 シリーがキャスの肩に手を載せた。


「苦労するな」


「魔法使いが、王は常識人だと言っていたから、そっちに賭ける。もしかしたら、この婚約にも反対してくれるかもしれないし」


 そう言いながら、キャスは考えた。

 そうだ、王子より上がいるじゃないか。王に反対してもらったらいい。


 

 次の日、早朝に王宮からの使者が来た。

 物々しい一行が、屋敷の前にズラッと並ぶ。

 向かい合ってキャス、その後ろに義母と義姉たちが立った。

 女三人と、少年一人。立派な身なりの、押し出しの良い使者と随行員たちに比べると、だいぶ貫禄負けしている。


「キャスリー様。王よりの書簡でございます。お受け取りください」


 王?


「王子からではないのですか?」


「国からの正式な書簡です。王の署名入りでございます」


 義母が、「とにかく受け取って、内容は後で確認なさい」と、後ろから小声でアドバイスする。


「すみませんが、今ここで内容を拝見しても構わないでしょうか」


 義母の言葉を無視してキャスが言うと、使者がピクッと頬を引きつらせた。

 たぶん失礼なのだろうな。でも、男でいられるか女になるかの瀬戸際で、礼儀になんか構っていられない。


「結構です」


 使者は態度も表情も崩さず、淡々と言い、おもむろに待ちの姿勢に変わる。


「では、拝見します」


 書簡を開き目を通すと、概ねキャスが想像していた内容が書かれており、その下に王の署名があった。


「もし、ご存じならお答えいただきたいのですが、王は僕と王子の約束を、お聞きになっているのでしょうか」


 使者は口を横一文字に引き結んだ。

 笑いたいのか怒りたいのか泣きたいのか分からない様な、おかしな表情だ。


「存じ上げております。王と王子からの手紙をお預かりしております」


 そう言って二通の手紙を渡してくれた。

 書簡を渡すまでの物々しさは影を潜め、ちょっと疲れたような様子が伺えた。


「読んでも?」


「どうぞ。王からは返事を聞いてくるよう言い使っております」


 キャスは大きい方の手紙を開いた。もう一方が、たぶん王子のものだ。


 内容は、「王子から賭けのことを聞いた。あの美少女が男だったとは驚いた。

 しかも少年組織のナンバーツーだとは。そして今は期待している。デルタウンは悩みの種だったのだ。君が成功することを願っている」


 キャスは拳を握った。王は俺の味方だ。

 そして王子の手紙を読んだ。

 そこには今回の賭けの内容が記されていた。

 王子のサインがすでに書き込まれている。それは賭けの誓約書だった。

 キャスはさっと読んで、使者が渡してくれたペンでサインをした。


「王に、できる限りの手を尽くしますとお伝えください」


 使者たちの姿が見えなくなるまで、門の前で見送り、それからキャスは家に飛び込んだ。

 そして書簡の内容を紙に書き写し、それを折りたたんで懐に突っ込み、家から飛び出した。

 これで動ける。


 キャスが街に着いて店に飛び込むと、シリーの横に見慣れない男が座っていた。

 年齢は二十歳くらいだろうか。赤いくせっ毛で、ひょろっとした男だ。少し緊張した様子でこっちを見ている。


「おいキャス、来いよ。渡りに船だ」


 キャスが近付くと、男が立ち上がった。

 

「パーシバルの所の側近で、うちとの新しいパイプ役のガスパールだ」


 キャスが挨拶すると、ガスパールの目がキャスに釘付けになり、そのままぼうっとなる。

 それを見てシリーが笑った。


「綺麗だろ、うちのキャスは。こいつの事、聞いたことが無かったのかな」 

 

 はっとしたように身動きして、ガスパールが手を出した。

 キャスはその手を握り、向かい側に座った。

 

「向こうも、今後のことを考えているところのようだ。キャス、誓約書は届いたか?」


 キャスは懐から写しを取り出し、シリーに手渡した。

 それに目を通したシリーが、「まともだな。お前を手に入れるために、変な小細工をしたりはしてないようだ」


「王の名で出された誓約書だよ。王子から王に進言したんだろうね。思ったより、やることはまともだ」


 キャスは王子を見直していた。王子の命令と、王命では重みが違う。誓約書の重みがあるほど、説得力も上がる。

 もしかしたら、王子はキャスを諦め、せめてもの利を取ろうとしているのかも。

 そう考えて、ニヤッとした。

 

 シリーが事のあらましを説明すると、ガスパールが首を縦に振った。


「そりゃあ、そうなってもおかしくないよ。男にしておくには惜しい」


 シリーは不機嫌なキャスを気にする様子もなく、大笑いしている。ひとしきり笑ってから、手紙をガスパールに渡した。


「そう言ってやるなよ。ま、この書面を読んでみろよ。どう思う?」


 書面を一回読み、驚いたような表情でこっちを見た、それからもう一度、じっくりと読んでいる。


「このタイミングで、これか。なんというか救いの神がやって来たって気分だ」


「乗りたいってことか? パーシバルはどう考えているんだ?」


 シリーが聞くと、「街をもっと普通の住みやすい街にしたいと思っている。俺たち側近もそうだ。ただ、それをよしとしない者たちも……」と目を瞑る。


 よっぽど大変なのだろうな、とそれだけで分かった。

 目が合うと、ちょっと頷き、「わかってもらえているようで、嬉しいよ。絶対的な王者だったロックがいたから、街には秩序があったんだ。それが消えて、候補の中で一番若いパーシバルが頭領になった。まだ抑えが効かない」


「でも、ロックがパーシバルを選んだと聞いているし、それだけの力があるからなんでしょ?」


 キャスが考えていたのとは、少し違うようだったので聞いてみた。


「ある。あるけど、今はまだ無理だ。法の力で秩序を作りたいが……まずは力で牛耳るしかない。そうするとだいぶ荒れることになるだろうな。だから悩んでいるんだ」


 シリーが、誓約書を手に取った。


「これをうまく使えたら、最悪の事態は招かずに済むかもしれないってことだな。ここはやはり、キャスの出番かな」


 シリーの言葉に、ガスパールは食い入るようにキャスを見る。

 そして、「その噂は聞いている。『クロスボウ』のキャスの作戦に間違いはないってね。実はそれを聞いてみたくて来たのもあるんだ」と言う。


 キャスはテーブルに肩肘を付き、頬を載せて考え込んだ。

 これがいつも深く考える時のキャスの癖だ。

 しばらくして、ガスパールが息を吐きだした。


「今すぐでなくてもいいんだ。ゆっくり考えて何か思いついたら、教えてもらえると嬉しいよ」


 キャスが顔を上げた。


「ちょっと思いついたことがあるんだ。一度デルタウンに行ってみるか」




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