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シンデレラ・ダイス  作者: 羊宮 玲(旧 羊)


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11/15

相談


 キャスは少し体を引いてシリーをジッと見た。


「昨日の事について聞かないんだな」


「ああ、あれか! 面食らったよ。なんだ、ありゃ」


「やっぱりシリーの事、好きだな」


 キャスは笑いながら、あの事件の顛末を語った。周囲にみんなが集まってきて、興味深々で聞いているので、少し盛りながら話して聞かせた……あまり盛らなくても、変な出来事だったが。

 おばちゃんの事は伏せて、「通りすがりの親切な魔法使い」が手助けしてくれたことにしておいた。


 舞踏会に潜りこんだ後の逃走劇に、ガラスの靴の事。

 そして、王子に女になれと強要された話では、なぜか笑いが起こった。

 まっ赤になって、腹を抱える者までいる。


 その後、悩むキャスの元に「通りすがりの親切な魔法使い」がやってきて、メイリーをキャスそっくりに変身させくれた、というところまで話すと、全員が大盛り上がりした。


「ちょっとまってくれ。ビールのお替り! おい、ビール」


 シリーが、店員に向かって叫ぶ。

 皆が「俺も」と叫んだので、しばらくの間は空きジョッキと、新しいジョッキのリレーのような状態になった。

 キャスもやっと一杯目のビールを手にできた。

 ぐっと飲んでのどを潤す。


「ところが、駄目だったんだ。あの王子、かなり手強いぞ」


 そう前置きしてから、その場で起こったことを話した。

 最初大笑いしていた皆が、「最後の一手として、俺から賭けを持ちかけた」と言ったところで真顔になった。


「女になれってのは、本気の本気か。微塵もためらい無しなんだな。で、本当に女になれるのか?」


「うん、多分ね。本物の女になれるみたいだ」


 周囲に居る者たちが、少し体を引いた。その後ろの方の物は前に乗り出してきた。

 全員がキャスの全身をじろじろと見ている。


「さぞ、綺麗だろうな」と誰かが呟いた。


 キャスが見回すと、興味津々な目に囲まれていた。


「待てよ。俺は女になる気なんか全然ないからな。そこでだ、シリー。助けてくれ」


「パーシバルとの交渉か。あいつがこの先どうしようか悩んでいるっていう話をしたよな。だからって、簡単にこっちの提案に乗るかはわからないな。五分ってとこかな」


「それでもゼロじゃないだろ。ドラゴン退治よりよっぽど可能性があるさ」


「ドラゴン?」と言って、周囲の者たちは顔を見合わせている。


「『通りすがりの親切な魔法使い』が、出してやるって言ったけど、お断りした。冗談じゃない」


「とんでもない申し出だな。本気か?」


「うん。人間じゃないそうで、人間の限界が微妙にわかっていない気がする」


 シリーは曖昧に笑ってから、「まあ、ゼロじゃないよな」と言い、顎を撫で始めた。シリーが何かを真面目に考え始める時の癖だ。



 デルタウンが首領の交代で揺れ始めたのは、つい半年前だ。

 その後釜に決まったのがパーシバルだが、まだ組織は安定していない。


 事の初めは、元の首領だったロックの引退話だ。荒くれものが集まって大きくなった街で、以前は無法地帯だったのを、ロックがまとめたことで、秩序が生まれた。

 そして一つの小さな軍事国家のようなものに変わっていった。


 三十代のロックは、このままこの街を仕切っていくと思われていたのだが、ある日彼は恋に落ちた。

 そして子供ができた。

 しかも、相手の女性は他国の貴族令嬢だという。


 許されないことだと思ったのに、なぜか相手側の家からも大歓迎され、そちらを継ぐために引っ越すと言い出したのだ。

 一同、唖然とした。

 キャスたちでさえ、開いた口がふさがらなかったのだから、デルタウンの人々の戸惑いは想像できる。さぞ……


 そして跡目争いが始まった。

 元々荒くれものが集まっているので、争いごとは派手だし、だんだんにエスカレートしていった。

 しばらく好きなように暴れさせ、候補が絞られるのを、ロックは待ったらしい。

 そして残った候補を集めたそうだ。


 そしてキャスたちが色々なところから何回も聞かされた、「ロックの問い掛け」が行われた。


「おい、質問するから答えろ」とロック。


「この街には女が少ない。どうやって女の住民を増やす」


 この問いに、「周辺からさらってくる」と即答した奴が、放り出された。

 それを見て、残りの二人は譲り合ったが、「お前は?」と指を突き付けられた、順におずおずと答えた。


「知っている女に声を掛けて、移住して貰う」と一人が言った。

 

「街に美味い店や、おしゃれな店を作って、来たくなるようにさせる」と答えたのがパーシバルだった。


「よし、じゃあ次の頭領はパーシバルに決まりだ。うまくやれよ」


 それでパーシバルに決まった。

 

「おい、周辺の街や勢力とのパイプ役たちは残すからな。俺も周辺に挨拶して回ったから、しばらくは干渉を防げるだろう。その間に今後の付き合い方を考えろ」


 ロックは自分の配下の主だった者数人を連れて、次の日デルタウンを出て行った。


 キャスが知っているのは、そこまでだ。

 ロックが挨拶に来た時に会ったが、体が大きくて見栄えのする男だった。

 キャスとは親子くらい年が離れている。


「お前が噂のキャスか。この見た目に騙される奴がどれほどいる事か。末恐ろしい男だな。大きくなったところをぜひ見たい」と言いながら、飴をくれた。

 全然嫌味な感じがしないので、素直に「ありがとう」と言えた。

 デルタウンに秩序を打ち立てた男だけあると、納得した。


 キャスは、まだパーシバルに会ったことがない。だが、この男に認められたのだから、それなりの男だと考えている。話せばわかる。

 王子よりも理解できると思いたい。

 


 しばらく黙っていたシリーが顎を撫でていた手をおろしてキャスの方を向いた。


「その誓約書が、国に明け渡せって内容だと厳しいな。どこまでデルタウンの自治を認める気なんだろう」


「この国の一地方都市として、ある程度今の体制を残して取り込みたい、だと思うけどなあ」


 キャスだって、明日届く誓約書を見ないことには、何とも言えない。と言うより、明日、その誓約書がとんでもない内容なら、成立させることが無理になる。

 ちょっと気が重くなってきて、ため息混じりに吐き出した。


「もし、あんまりな内容だったら、王に直訴するしかないか。王だって、デルタウンをどうにかしたいはずだもの」


 シリーがキャスの肩に手を載せた。


「苦労するな」


「魔法使いが、王は常識人だと言っていたから、そっちに賭ける。もしかしたら、この婚約にも反対してくれるかもしれないし」


 そう言いながら、キャスは考えた。

 そうだ、王子より上がいるじゃないか。王に反対してもらったらいい。




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