9話 お人好しと住宅改善
カイとライにお願いしたいことがあるんです。
俺がそう言うと、二人はしゃがみ、片膝を立てる姿勢を取った。
「はっ! リンドウ様、何をすればよろしいでしょうか!」
「いやいや、“様”なんてつけないで下さいよ!」
慌てて二人を立たせようとしたが、頑なに拒否された。
「何を仰いますか。あれほどの奇跡の御業で
我々亜人族、ひいてはガオト様を救ってくださった恩人に、
礼を欠く真似はできません。
リンドウ様こそ、我らにそのような話し方は不要です。」
……あれ?
前の世界のイメージと比べると、初対面で棍棒は振り下ろされたけど、
それ以外は随分と知性的だ。
「私の話し方は性分なもので……。
それにしても、皆さん体つきが立派になり、精悍になられましたね?」
「はい、これもリンドウ様のおかげです。」
カイが続ける。
「魔界で生まれた者は、食料などから得たエネルギーを
魔力として変換し、身体に吸収します。
消費を超えて最大値を増やすことに成功すると“格”が上がります。
格が一定を超え、超越者となった者は……
ガオト様のように、肉体年齢すら理の外になる存在となるのです。」
つまり──
一日の基礎代謝を超えて魔力を摂取したら、
太るのではなく“成長する”ということか。
元・中年太りを気にしていた四十歳としては、
なんとも羨ましい話だ……。
ライが補足する。
「とはいえ、胃袋の限界もありますし……。
身の丈に合わない魔力を一度に大量摂取すると、
魔力中毒になって死に至ります。
格を超えられるかどうかも才能の壁がありますので……。
稀に一族の中から才ある者が生まれて傑出する、という感じですね。」
「なるほど、よくわかりました。
カイもライもありがとうございます。
……すみません、話が逸れましたね。」
二人が同時に手を振る。
「いえ、お役に立てたなら幸いです。
それで、何をすればよろしいでしょう?」
話し方を戻してくれる気はなさそうだ。
仕方ないので進めることにした。
「村を発展させるため、家を建て替えようと思いまして。
つきましては、力のある人足を集めていただきたいのです。」
俺は魔術で設計図面を出し、二人に見せた。
目指すのは鉄筋コンクリートの宮殿に木造建築。
日本のベッドタウンのような光景だ。
「必要な技術や材料もありますので、
そこは都度相談しながら進めましょう。」
「力仕事であれば、ぜひ我々にお任せください。」
声のした方を見ると、
熊の獣人──ワーベアと思われる男性が立っていた。
「初めまして、リンドウ様。
ワーベアのデインと申します。
力仕事であれば、ワードッグのライ達より
我々一族の方が向いているかと思います。」
確かに逞しい腕をしている。
だが “ライより” という言い方はよろしくない。
案の定、ライの顔には苛立ちが浮かんでいた。
「わかりました。
では、私が総指揮官。
問題発生時や相談の窓口をカイ達。
施工管理と現場との繋ぎをライ達。
現場指揮と建築をデイン達にお願いします。
ただ、他に助力を仰げる方がいれば、
各自の判断で迎えていただいて構いません。」
俺は、カイとライの顔を立てた計画を提案した。
すると、デインが不服そうに異議を申し立てた。
「なぜ、そのような面倒な事をなさるのです?
我々一族とリンドウ様だけで十分ではありませんか?」
「デインさん──」
「デインとお呼びください。」
「……はい、デイン。
私たちの目的は競うことではありません。
協力して、この村を良くすることです。
少数で進めると視野が狭くなり、問題に気付けない場合があります。
また、取りまとめる者がいない状態で、
例えば私がデイン達の一族からバラバラに要望や相談を受けたら……
私一人では対応できません。
整理してまとめてもらう必要があるのです。」
「わかりました、リンドウ様。
そう仰るのであれば、指示に従います。」
そう言いながらも、デインの表情には
まだ納得しきれていない色が残っていた。
俺は心の中でガオト様にそっと謝る。
──すみません、名前を使わせて貰います。
「デインが率先して協力を申し出てくれたこと、
とても嬉しく思います。
ガオト様のために、皆で頑張りましょう。」
全員が声を揃える。
「はい! リンドウ様!」
……まさか異世界でも中間管理職の辛さを味わうとは
思っていなかったが、何とか協力してやっていけそうだ。
発展していく村の姿を想像し、
俺は静かに心を躍らせていた。




