表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/17

10話 お人好しと意識改革

俺は最初にカイの住居を建てることにした。

その旨を伝えると、デインから抗議の声が上がった。


「なぜですか? 優先するならガオト様のご住居でしょう!

 もしくはリンドウ様のご住居ではありませんか?」


あぁ……いや、俺は永住する気はないのだが、

彼らはすっかりそのつもりのようだ。

その点には触れず、表向きの理由を告げる。


「私たちは初心者です。きっと色々失敗するでしょう。

 もっと熟練してから、ガオト様の家を建てるべきです。」


「なるほど、カイの住居を練習台にするのですね!

 それなら合点がいきました。

 それでは早速取り掛かります。」


「はい、お願いします。

 設計図面に記載している建材は私が提供しますので、

 足りなくなったら言ってください。」


俺はあえて口出しせず、作業を見守った。

ワーベアや獣人たちの労働力は凄まじく、

数カ月でカイの家は完成した。


カイとライから「完成しました」と報告を受けたが、

二人の表情は暗く、デインだけが誇らしげだった。


「どうですか、リンドウ様。

 さぁ、次こそはガオト様の宮殿ですね!」


俺は素直な感想をデインに伝える。


「外観“は”それなりに出来ているように見えますね。

 では、中に入りましょう。

 カイ、ライ、デイン。それと建築に関わった数名は

 私の後についてきてください。」


家の中に入ると、俺は一つずつ“欠陥”を示していく。


「見ていてください。」


床にボールを静かに置くと、転がり始めた。

扉や窓も滑らかに開閉できない。


「作業が楽になるからと、コンクリートに加水しましたね。

 よく見れば、他の部分も既にひび割れています。」


全員で一度外に出て、俺は詠唱する。


人工降雨アーティフィシャル・レイン!」


家の上にだけ雨雲を作り、しばらく降らせた。

その後、デインに中を確認するよう促す。


「見てきてください。

 天井に染みができ、雨漏りで床が濡れているはずです。」


言った通りだったのだろう。

家から出てきたデインは、肩を落としていた。


「それで……極めつけですが。」


俺は心の中で家に謝りながら、怪力で家を揺らす。

震度4ほどの振動を伝えると──

しばらくして家は崩れ落ちた。


「この強度では、人が住むことはできません。」


ワーベアたちがざわめき始める。


「そんな……リンドウ様の設計図通りに作ったのに……

 まさか、リンドウ様って大したことないんじゃ……」


その声が聞こえた瞬間、ライが怒声を上げた。


「何言ってんだ! てめーらが──!」


俺はライの口を押さえ、頭を下げる。


「皆さん、私の指示が甘くてすみませんでした。

 色々と聞き取りをしたいので、本日は解散でお願いします。」



その夜、俺はガオト様の住居にある一室へライを呼び出した。


部屋に入るなり、ライは深く頭を下げる。


「リンドウ様、申し訳ございません。

 任された役目を果たすことが出来ませんでした!」


俺は座るよう促し、魔術で出したビールと焼き鳥をテーブルに並べた。


「まぁ、そう固くならずに。

 今日は気軽に飲みながら話しましょう。

 まずはお疲れさまでした。」


最初は恐る恐る口にしていたライだったが、

次第に箸が進み、そして泣きながら語り始めた。

どうやら泣き上戸らしい。


「ワーベアの奴ら、俺の言うこと聞かないんですよ!

 図面通りにせず、ずれても気にしない!

 勝手な判断で手順書にないやり方をするし、

 釘を使うなって書いてる所で釘を使うし、

 支給した生コンクリートに加水するし!


 それで“リンドウ様の設計図通りに作った”って

 言い出した時には……俺は切れましたね!

 あぁ、切れましたよ!」


この数カ月、俺に相談することも申し訳なく思い、

ライは胃痛で死にかけていたらしい。


俺はライの肩に手を置き、礼を言った。


「ありがとう。怒ってくれたライの気持ちは嬉しいです。

 これからはもっと気軽に相談してください。」


ライは感激してむせび泣き、

そのまま眠ってしまった。


「リンドウ様……ありがとうございます……。

 このライ、一生ついていきます……!」


テーブルに突っ伏したライを横に寝かせていると、

ガオト様が部屋に顔を出した。


「ただのお人好しかと思っていたが……

 中々に“人たらし”の術を心得ているようだな?」


そんな高尚な技術ではない。

前の世界の飲みニケーションを実践しただけだ。


「こうやって腹を割って話す機会って大事ですからね。」


ガオト様がにやりと笑う。


「それなら──私とも腹を割って話してもらおうか?」


俺はガオト様の意図を汲み、

ライと同じビールと焼き鳥を用意した。


その後、やたらとガオト様に

好きな女性のタイプや“つがい”について聞かれたが、

考えたことがないとお茶を濁した。



翌日、俺はデインを含めたワーベア達とグループミーティングを行った。

圧迫にならないよう、できるだけ柔らかい口調を心がける。


「昨日、ライから作業の実態を聞きました。

 何か心当たりはありますか?」


デインが驚いた顔で仲間たちを見回す。

どうやら把握できていなかったらしい。


ワーベアの一人が口を開いた。


「少しくらいずれても問題ないと思いました。」


俺は、1mmずれた板を何枚も重ねたものを用意する。


「一つずつは大したことがなくても、積み重なれば大きなずれになります。」


次の一人が言う。


「釘を使わない意味が分からなくて……。」


俺は木片と釘を用意し、実演する。


「理由は図面に書いていたと思いますが……

 釘で止めると錆びますし、

 使ってはいけない場所で使うと、

 水分による拡縮でひびが入るんです。」


さらに別のワーベアが言う。


「生コンクリートの分量を変えても、十分硬かったから……。」


「その結果が、昨日の家に繋がりました。」


そして最後に──

俺が“表向きの理由”に隠していた部分が、予想通り出てきた。


「だって、カイの住居だし……。

 これがガオト様の住居なら、

 みんなもっと真面目にやったと思う!」


他の全員も「そうだそうだ」と賛同し始める。


俺は静かに言った。


「では皆さん。

 もし昨日の家を、私が“やっぱりカイではなく、あなたの家にする”と

 決めていたとしても、文句はなかったということですね?


 床が傾いていても、扉が開かなくても、

 ある日突然、寝ていたら家が崩れてきても……

 “ガオト様の住居ではないから仕方ない”と思えるんですね?」


全員が押し黙った。


「今、きっと“嫌だ”と思ったでしょう?

 それが答えです。


 誰の家かなんて関係ありません。

 家に限った話でもありません。

 どんな物も“自分が使うつもりで”作ってほしいのです。


 できれば、自分なら平気でも他の種族ならどうか──

 そこまで思いを馳せてほしい。


 例えば、ワーベアなら問題なくても、

 猫人族キャットフォークなら重くて開けられない扉になっていないか……など。」


俺は全員の顔を見て、静かに告げた。


「明日から、もう一度カイの家を建て直します。

 私の考えに納得できない方は、来ていただかなくて結構です。

 それは決して悪いことではありません。向き不向きです。

 デインも、無理に働かせるようなことはしないでください。

 同調圧力をかけても、良い結果にはつながりません。」


カイとライは頷いているが、

ワーベア達は頷く者、考え込む者と三者三様だった。


「それでは本日はお開きにしましょう。

 皆さん、お忙しい中お集まりいただき、ありがとうございました。」



翌日。

俺がカイとライと話していると、デインが報告にやってきた。


「ワーベアのうち二名が、建築に直接関わることを

 辞退したいと申し出ました。

 細かい調整などは、どうしても性に合わないと……。

 ただ、運搬などについては任せてほしいとのことです。」


「わかりました。それで十分です。

 ありがとうございます。」


こうして、初めての建築は失敗に終わった。

だが、それは意識改革に必要な──

意味のある失敗だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ