8話 お人好しと亜人村の宴
見慣れない天井……だが、ここは恐らくガオト様の住居だろう。
全ての村に複製を行った負荷が大きすぎたか。
CPUとメモリがハングアップしたようなものだ。
「今度から気を付けよう……」
横から声が聞こえた。
「まったくだ。こちらも驚いたぞ。」
「ご迷惑おかけしました……ガオト様。
って、あれ?」
慌てて横を見ると、薄い服を纏った女性が寝ていた。
「はっはっは! 驚いたか。ようやく仕返しが出来たな。」
「まさか……ガオト様なのですか?」
「そうだ。お前のおかげで土地に魔力を送らずに済むようになった。
供給を止めて回収したのだ。まだ本調子ではないがな。」
そう言って布団から立ち上がる。
見た目は二十歳ほどの女性に成長していた。
白っぽかった短髪が真紅の長い髪に変わり、
端正な顔立ちと抜群のプロポーション。
尾骨からは立派な尻尾が伸びており。
鋭い目はこちらを射抜くようだ。
「美しい……」
思わず声に出してしまった。
ガオト様が微笑む。
「そうだろう? 改めて自己紹介しておこう。
紅狼族の獣人、ガオトだ。亜人族の魔王をしている。」
屈伸をしながら笑う。
「この姿になったのは二百年ぶりでな。
久しぶりに視界が高い。ここ数日は額をよくぶつけている。」
「ここ数日……私が記憶を失ってから、どれくらい経ったのでしょう?」
「十三日ほどだ。カイとライも心配していたぞ。
あの奇跡を見れば心酔もするだろう。」
「十三日……大変なご迷惑をおかけしました。
すぐに起き上がって次の──」
立ち上がろうとしたが、力が入らない。
不老不死でも栄養は必要だったか。
俺は魔術で経口補水液(ORS)を作って飲む。
「良いから寝ておけ。お前が回復したら宴を行う。
そこで配下にも伝える事がある。」
「かしこまりました……では、お言葉に甘えます。」
布団に入り直したが──
「あの……ガオト様?
なぜ一緒に寝ようとしているので……?」
「この家に布団はここだけだ。
何だ、私に床で寝ろというのか?」
「いえ! それなら私が床で!」
飛び出そうとした瞬間、抱き留められた。
凄い力で怪力を使わないと動けそうにない。
ガオト様がクスリと笑う。
「観念して寝ろ。」
「はい……」
──そして、体調が回復すると宴が開かれた。
上座にガオト様、そして何故か隣に俺。
収穫した恵みと、森で狩った獣肉の料理が並ぶ。
やがて場が静まり、ガオト様が立ち上がる。
「思念伝達で繋がる配下全員、そしてこの場の者よ、聞け。
魔界の荒地に恵みをもたらした救世主がいる。
それは私ではない。この魔術師の人間、リンドウだ。
私はこの日を、リンドウを称える日とする!」
一瞬、ガオト様の視線が俺に向く。
「だが、我々は誇り高き亜人族だ。
与えられるだけを良しとする種族ではない。
この恵みを当たり前と思うな。
そして次も与えられると思うな。
リンドウよ、立て。」
俺は杯を持って立ち上がる。
「お前はまだ我々を助けるつもりだったかもしれん。
だがそれは、一方的に与えられる形であってはならん。
力を借りる事はあっても、成し遂げるのは我々自身であらねばならぬ。」
俺は深く頭を下げる。
「はっ、畏まりました。肝に銘じます。」
「うむ。助けてくれたお前に無粋な物言いをしたな。
それでは──リンドウの偉業と、この善き日に。
皆の者、杯を掲げよ。乾杯!」
「乾杯!」
「魔王様万歳! ガオト様万歳! リンドウ様万歳!」
宴が再び賑わいを取り戻す。
ガオト様が静かに俺へ声をかけた。
「……そういうわけだ。気分を害したか?」
「いえ。仰る通りです。
今後は“走り始め”を手助けする形に致します。」
「そうしてくれるならありがたい。
だが、もう十分すぎるほど礼は返してくれた。
次の目的があるなら、この地を離れてもいい。」
「いえ。まだ私に出来る事があるなら、
尽力させていただきたく。……許していただけますか?」
「願ったり叶ったりだが……本当にお人好しだな。
それで、次は何をする?」
「住居に手を入れたいと思います。
竪穴式住居もそうですが……
偉大な魔王であるガオト様の住居がログハウスでは、と。」
「ふふっ、違いない。
だが人に言われると複雑だな。」
談笑していると、カイとライが杯を持って近づいてきた。
丁度いいと思い、
俺は次の計画を二人に話し始めた。




