6話 お人好しとミンゴの実
ガオト様が狼狽する。
「お前、正気か?
ここは魔界で、お前は人間だぞ?」
俺はその言い回しにはっと気付く。
「もしかして……人界と魔界は対立していたりしますか?」
「良くはない、いや悪い。
肥沃な大地を求めて人界に攻め入った事もある。
吸血鬼や夢魔からすれば、人間は食料みたいなものだ。
人間共も、我ら獣人やゴブリンを奴隷にしている国もある。」
「なるほど……人界と魔界の関係はわかりました。
ですが──私には関係ありません。」
「何が狙いだ……?」
「狙いなどはございません。
私はガオト様に優しく世界の事を教えていただきました。
いわば、これは“恩”です。
恩人に礼を尽くすのに、種族は関係ありません。
それに──」
「それに何だ?」
「村を通る途中、飢えたゴブリンや獣人の子供を見ました。
幼い子供がお腹いっぱい食べられない……
それは間違っている、と私は思うんです。」
ガオト様が椅子から立ち上がる。
「偽善者……いや、お人好しか。
ならば門番をしていたゴブリンのカイと、
獣人のライを案内につける。
精々、役に立って見せよ!」
「はい、非才の身ではありますが、
尽力させていただきます。
ご厚情に感謝致します。」
俺がガオト様の家を出ると、
既にカイ様とライ様が待ち構えていた。
カイ様が腕を組みながら、訝し気に呟いた。
「ガオト様から思念伝達で話は聞いた。
変わった人間だな、お前は……」
「思念伝達でございますか?
カイ様、ライ様、よろしくお願い致します。」
「俺たちに“様”はいらん。
魔王様は、自分に忠誠を誓っている配下たちと魔力で繋がっている。
いつでも呼び出し可能だ。」
「カイ、ライ……承知しました。
それは便利ですね。」
万能魔術で出来そうだな……
今度試してみよう。
ライが面倒くさそうに喋る。
「そんで……? 何がしたいんだ?
おかしな真似はすんなよ?」
「そうですね。まずは目の前の空腹を何とかしたいと思います。
食べられる実のなる木など植えていますか?」
「それならこっちにミンゴの樹がある。
生育不良で碌に育っちゃいねー。
当然、実もなってないけどな……」
「是非、案内してください!」
ついていくと、今にも枯れそうな木が10本ほどあった。
「俺はまずはこれから……」
1本の木を選ぶと緑の手(神聖)を発動させ、
触れながら魔術で出した水を与える。
すると、見る見るうちに大樹へと育ち、立派な実をつけた。
カイとライが唖然とする。
「馬鹿な……」
「なんだこれは……」
俺は実の一つをもいで口にしてみた。
「リンゴの様な実で、ミカンみたいな味がする。
これはこれで美味しい。」
俺は残りの木も全て同じように成長させた。
カイが驚嘆の声をあげる。
「お前……何者だ……
こんなことは魔王様でもできねーぞ。」
「ただの迷子の魔術師です。」
気が付くと、色々な亜人の子供たちが集まってきていた。
「ねぇ……これ食べていいの?」
俺は子供の頭を撫でる。
「はい、いくらでも食べてください。」
「やったー! とっても甘い!
前に食べたミンゴより美味しい!」
子供たちの食欲は凄まじく、
見る見るうちにミンゴの実がなくなっていく。
俺はカイとライに実を渡した。
「さぁ、お二人もどうぞ。」
カイが受け取った後、照れながら呟いた。
「ありがとうよ。子供たちのあんな笑顔は久しぶりだ。
貰ったこの実だが……魔王様が先だ。
献上してくるから待っていろ。」
ガオト様は随分と慕われているようだ。
そう考えていると、腰くらいの高さから声がした。
「その必要はない。久しぶりに食べたな。」
ガオト様がミンゴの実を齧っていた。
「なるほど、大した能力だな。
それで、これで終いか?
一時の腹の足しにはなるが、解決にはならんぞ?」
「いえいえ、まだまだこれからです。
楽しみにしていてください。」
「ほほう……」
ガオト様が舌なめずりをする。
その姿は見た目の割に艶やかさがあった。
「では、お手並み拝見とするか。」
俺は一礼した後、次の目的地へ向かった。




