5話 お人好しと亜人族の魔王様
魔王様が拍子抜けした声を出す。
「はぁっ?」
そして目を細める。
「魔術師で記憶がない……
気が付いたら迷い込んでいただと?」
俺はそういう風に説明した。
真実を告げるのは、信頼関係を構築してからでも
遅くはないだろうと判断した。
「お前、ここがどこだか……
わかっていないんだったな。」
面倒くさそうに溜息をつく。
「はぁ……」
「ここは魔界だ。」
「魔界……ですか?」
「この世界は、魔界・天界・人界に分かれている。
各界を行き来するには、異界渡りの門を魔術で開く必要がある。」
「なるほど……そしてあなた様が魔界を統べる魔王様と?」
「統べてはおらん。魔界に魔王は何人かいる。
ここは亜人族が治める地域。
ゴブリン、オーガ、獣人などが暮らしている。
私はその魔王、ガオトだ。」
「わかりました、ガオト様。
それで他の場所や界はどのようになっているのでしょう?」
「私も全て把握しているわけではないがな。
魔界だと他に、吸血鬼が治める地域、
フェアリー、インキュバス、サキュバスなど
妖精や夢魔が治める地域、
金属生命のゴーレムが治める地域などがある。」
「なるほど、それぞれの種族を束ねる魔王がおられるのですね。」
「そうだ。
そして人界は、お前の様な人間が治めていて、
天界はエルフや天使族が治めているはずだ。」
「はず……ですか?」
「人界なら行った事があるが、天界には行った事がない。
基本的に相互不干渉だ。」
異界渡りの門を魔術で開く必要があるのに、
魔界に人の俺がいたら確かに怪しいな……合点がいった。
「色々とありがとうございます。
ガオト様はお年の割に博識でございますね。」
ガオト様が俺を睨みつける。
「馬鹿もの。見た目で判断するでないわ!
私はこれでも300歳を過ぎている!」
「これは大変失礼いたしました。」
「ふん、まぁそう思われても仕方ないがな。
この荒れた大地に少しでも芽吹くように、
魔力を使い続けたせいですっかりこの様よ。」
「荒れた大地に魔力……でございますか?」
「うむ。魔界の太陽は日当たりが悪く、
大地も枯れ果てている。
森にあったような植物なら、それでも
何年もかけて育つのを待てばよいが、
食物を育てるには向いてなくてな。
魔力を通して、育成を促しているのだ。」
「……それを、この亜人族の地域全体に、ですか?」
「さようだ。焼け石に水だがな。」
この地域一帯に放出しているとは驚いた。
もし放出が不要になったら、
どれほどの力を持っているのだろう。
そうか、魔力の使いすぎで成長が戻っている
あるいは縮んでいるか……
俺は頭を下げた。
「恐れ入りました。貴方は、
民の為にその力を振るう……
真の名君であらせられます。」
ガオト様の頬が紅に染まる。
「ふん、お前に褒められても嬉しくはない。
私が聞きたい事も、お前が聞きたい事もこれで終わりだろう?
満足したなら人界に戻るがいい。」
俺は頭を下げながらお願いする。
「もし、ご迷惑でなければ……
私にこの地──試しにこの村だけでも、
一助となる働きをする事を許してもらえないでしょうか?」
俺の異世界の最初の善行は、
亜人族の村の改善。
そう心に決めたのであった。




