4話 お人好しと第一の村人達
身体強化を使って北西に42キロ弱──
フルマラソン程の距離を走り続けると、村の入り口が見えた。
立ち止まり、離れた距離から魔術を行使する。
「鷹の目!」
使った瞬間、身体強化と重なって、
視力が約20倍くらいまで引き上げられた。
「門番らしき男が2名ほど立っているが……一人は緑の肌。
もう一人は耳が生えた男……ゴブリンと獣人?」
前の世界と同じ様な人類はいないのか。
種族的なものなのか判断が付かない。
虎穴に入らずんば虎子を得ず──か。
俺は両手を挙げながら、ゆっくりと門番に近づいた。
ゴブリンらしき門番が叫ぶ。
「%$&&T$☆□!」
何を言っているかわからない。
まさかの“よくある特典”はサービスされていなかったらしい。
俺は静かに魔術を唱える。
「翻訳」
すると、門番の言っていることが分かるようになった。
「そこで止まれ! お前は何だ、どこから来た!」
俺は説明を試みる。信じてもらえるだろうか。
「すみません、迷子の……魔術師です。
敵意はありません。本当です。」
すると獣人らしき男が、持っていた棍棒を振り下ろしてきた。
「怪しい奴め!」
俺は思わず衝撃に備えて目を瞑るが──あれ?
棍棒が俺の顔に当たって、そのままへし折れた。
どうやら鉄壁が発動したらしい。
「あ……すみません、棍棒折れちゃいましたね。」
両手を合わせて謝る。
「お騒がせしました。あなた達に危害を加えるつもりはありません。
失礼しました……今すぐ立ち去ります。」
ゴブリンと獣人が、お互いの顔と俺の顔を交互に見ている。
踵を返して立ち去ろうとした、その時だった。
「何を騒いでいるか!」
獣人の娘が現れた。
年齢は小学生1年から2年くらいだろうか。
腕を組み、ふんぞり返っているのがかわいらしい。
ゴブリンと獣人が平伏する。
「失礼しました! 魔王様!
怪しい奴が村に近づいたので追い払っていたところです!」
魔王と呼ばれた少女が、俺の顔を覗き見る。
「全く、相手の力量もわからんとはな。
そこの男が本気になっていれば、今頃貴様らだけではない。
この村など、とっくに廃墟と化している。」
俺はゴブリンと獣人と同様に平伏する。
「私にそのような気持ちは一切ありません。
本当にただ、迷い込んでしまっただけなのです。」
魔王が鼻を鳴らす。
「話を聞いてやろう。村の中に入るが良い。
案内してやれ。」
「いいのですか? 魔王様! この様な得体のしれぬ者を!」
「言っただろう。その男が本気なら、と。
それに興味が湧いた。」
そう言って、無邪気に微笑んだ。
ゴブリンが渋々といった感じで、
ついてこいと手で示す。
俺は頭を下げてから、3歩後ろをついていく。
「魔王様、ありがとうございます。」
村の中に入ると、そこは荒れた田畑と竪穴式住居が続いていた。
「まるで縄文時代だな……
いや、日本でも鎌倉時代まで竪穴式住居は現役だったか。」
そして村の一番奥に、唯一の木造建築──
ログハウスのような建物があった。
どうやらそこが魔王様の住居らしかった。
中に通されると、大木を横に切った様なテーブルがあった。
魔王様が椅子に座り、腕を組む。
「さて、お前の話を聞かせてもらおうか。」
「はい、それでは……」
俺は、何をどこから話そうか思考を巡らせた。




