53話 お人好しと一休み
エルシャとアルベドから同時に声が挙がる。
「~~~~~っ痛っ……」
「痛っ!」
どう見てもエルシャの方が痛そうだ。
「何をするんですか、母上。
俺が力を抜かなかったら母上の手が砕けていましたよ?
そもそも、何でまだ貴族級でいるんですか?
さっさと古血級なり王級なり上がればいいものを。」
エルシャがまた怒鳴る。
「貴方が眠っている状態で、私が上げれるわけないでしょう!
もし格を上げて不味い血に耐えきれなくなっても、仮眠できないのよ?」
エルシャが俺に視線を向けた。
「まぁ、それもリンドウ様のおかげで解決しましたので、
しばらく様子を見てから上げるつもりですよ。
すみません……リンドウ様、カリン様。
アルベドと話があるので、今日のところは城に宿泊していただけないでしょうか?
今夜は精一杯のおもてなしをさせて頂きます。」
俺はカリンと二人で頷く。
「わかりました。それではお言葉に甘えさせて頂きます。」
執事に案内された部屋は、最高級ホテルのスイートルームのようだった。
そこでカリンと休もうと思った──のも束の間。
そこからが大変だった。
ヴェルダ翁、ダラム公、マハト婆をはじめ、
人工血液を供給した吸血鬼たちが次々と面会を求めて部屋にやってきては、
口々にお礼を言って去っていく。
結局、一息つけるようになったのは夜になってからだった。
「タケオミさん……疲れましたね……」
俺はソファに深く腰掛けたまま同意する。
「あぁ……色々とね……。
アルベド様が眠っていた真相もだけど……」
カリンが額に手を当てる。
「えぇ……同じ魔王様でもガオトさんやステュクスさんとは
随分と違いました……というか何ですか。
魔王って本当に強さで選んでるんですか?
顔じゃなくて?」
俺は苦笑する。
「まぁ……確かにガオトもメティスも整っているけど、
カリンも負けないくらい綺麗だよ?」
カリンに睨まれる。
褒めたのに何故……?
「そういう“褒めとけば”みたいなのって逆効果ですよ?
そもそも、こっちに来てから随分と軽薄になっていません?
エルシャさんにも鼻の下を伸ばしていたような……」
俺は首を振る。
「いやいや……相手は魔王の母親で人妻だよ?
大体、鼻の下なんて伸ばしてないから!」
俺は話題を変える。
「さて、明日はアルベド様と改めて話があるだろうし、もう休もうか。
どんな話になるか、全く予想つかないけど。」
カリンが目を細める。
「ガオトさんを寄こせとかだったらどうします……」
俺は首を振る。
「ガオトは物じゃない。それに譲るつもりもないよ。」
カリンが口角を上げる。
「だそうですよ? ガオトさん。」
俺は頬を赤くする。
「もしかして、携帯電話で繋げてた……?」
カリンが頷く。
「はい、さっき申請魔法出しましたよね?」
やられた……別にいいけど。
俺は直接ガオトと会話した後、
カリンと眠りについた。
◇翌日
王座に座ったアルベドと向かい合う。
横にはエルシャが控えていた。
魔王と視線が合った瞬間、
息を呑むような重圧が広間に満ちた気がした。
アルベドがゆっくりと口を開く。
「改めて挨拶をしておこうか。
俺が吸血鬼の頂点、現在の魔王──
そして唯一の真祖となるアルベドだ。」
俺はアルベドの次の言葉を待った。




