51話 お人好しと無償の博愛(後)
俺はエルシャの案内のもと、
上層や城の部屋で眠る棺桶の吸血鬼たちに人工血液を提供して回った。
人数で言えばおよそ三十名。
不明だが、血液型で言えば希少な四種類ほどだろうか。
「そういえば城ですれ違いましたが、古血級で仮眠していない方もいらっしゃるのですよね?
何故、貴族級のエルシャ様が取りまとめているのでしょう?」
エルシャが目を見開いた。
「リンドウ様は……理知的かと思えば、時折とんでもない質問をしますね。」
俺は頭を下げる。
「すみません……魔界の常識に疎いもので……」
エルシャがため息をつき、頬に手を当てた。
「違いますよ、リンドウ様。
それは魔界の常識ではなく、人間界の常識で考えた方が分かるはずです。
人間界では、最も武力ある者が政治をするのですか?
違いますよね?
政治は“賢い者”が行うものです。
だから私が取りまとめているのですよ。
人間界出身のリンドウ様の方が
この仕組みは理解しやすいと思いませんか?」
俺が絶句する横で、カリンが笑っている。
「リンドウさんも随分と魔界に毒されましたね?」
俺はつい言い訳をする。
「違うんだ……亜人族やゴーレムは、魔王のガオトやメティスが統治も支配もしていたから……。
あれ……? 吸血鬼の魔王様がお目覚めになったらどうなるんでしょう?」
エルシャが唇に指を当てる。
「そうですね……支配はしますが、統治は私や、リンドウ様の手でお目覚めになった方々になるでしょう。
そうそう……私が政治をしていた理由ですが、賢い以外にもう一つ理由がありました。」
王座の横で眠る棺桶に着いた。
「縁故……です。
こちらが我々の魔王、真祖を継ぐ者、アルベド……私の息子です。
二百年ほど前から眠りについております。」
俺はその言葉に絶句する。
「えぇ……エルシャ様の息子?!
どう見ても二十代前半にしか見えないのに……」
エルシャが俺の手を握り、棺桶の手前へ導く。
「ふふ、ありがとうございます。
ちなみに旦那はもう居ませんので未亡人ですよ。
さぁ……リンドウ様、こちらへ。
息子をお願い致します。」
俺は棺桶で眠る青年の顔を見つめる。
その端正な顔立ちは、男でも見蕩れるほどの美しさだ。
つい、カリンの反応が気になって視線を向けた。
「綺麗な顔ですね。
おとぎ話に出てくる王子様を現代風にしたみたいな……」
造形としての評価以外はなさそうで、少し胸を撫でおろした。
ただ、その様子をエルシャに見られていた。
「あら、リンドウ様は思いのほか嫉妬深い方でしたか?」
俺は言葉に詰まる。
「まぁ……そんな資格ないんですけどね……」
カリンが即座に突っ込む。
「ノーコメントで。」
それにしても……俺はふと気になって、
エルシャに彼の性格を聞いてみた。
「ちなみに……どんな性格なんです……?」
エルシャが言葉に詰まる。
「身内の欲目になりますが、頭脳明晰です。
魔王を継いだだけあって、強さも折り紙つきですね。
ただ……」
「ただ……?」
「強い者と戦うのが好きで、特に亜人族の魔王──ガオト様がお気に入りで、
求婚を兼ねて喧嘩しに行っていましたね……。
ガオト様が亜人族の村で土地に魔力を供給し始めてからは、
“詰まらん……”と言って控えるようになりましたが。」
俺の眉間に皺が寄る。
どうしよう……ちょっとだけ起こしたくなくなってきたぞ……。
「えっと……起こして大丈夫ですか?」
エルシャが両手を組み、姿勢を正す。
「強く言って聞かせますので、どうかお願いします。」
エルシャの話し方が、息子を前にして“母”に変わっている気がした。
まぁ……ここまで来て起こさないという選択はないのだが。
俺は深く息を吸い、一気に吐き出すと、
アルベドから血液を採取した。
「それでは、始めます……」
「人工血液!」
二百年ぶりに──吸血鬼の魔王が目を覚ます。




