50話 お人好しと無償の博愛(中)
俺は運ばれてきた一人から血液を採取すると、万能魔術を唱える。
万能細胞で採取した血液を元に培養するイメージ。
「人工血液!」
作り出した血液を三リットルほどのペットボトル容器に詰め、
さらにその血液に魔力操作で人間一人分くらいの魔力を流し込む。
人工血液の輸血パックが完成した。
「出来ました。これで恐らく拒絶反応もないと思います。」
エルシャが恐る恐る受け取り、輸血パックを見つめる。
「過去の記憶を再生する魔術もそうですが……
リンドウ様の使う魔術は不思議ですね……。」
エルシャは輸血パックを吸血鬼の口元に持っていき、
何かを唱えるともう片方の手が光り出し、
吸血鬼の瞼に押し当てた。
仮眠から呼び起こす魔術だろう。
「うっ……何だ……。
もう嫌だ……あの臭い……。
口に入れた瞬間、この世の全ての臭気を凝縮したような血を飲むのは嫌だ……!」
どれだけ臭いんだ……。
吸血鬼の進化の代償が酷すぎる……。
エルシャが呼びかける。
「ヴェルダ翁様、待ちわびたお食事です。
どうぞ、召し上がって下さい。」
その声でヴェルダが目を見開いたかと思うと、
ペットボトルに齧り付き、牙で穴をあけた。
「ゴクッゴクッゴクッ!!!」
みるみるうちに三リットルの血液が吸い上げられていく。
「美味い……! 美味い……!
あぁ……こんなに美味い血は何年ぶり……いや百年振りだろうか……!?」
エルシャが笑顔のまま訂正する。
「ヴェルダ翁、百五十年振りです。
ふふ、どうやら味には問題ないようですね。」
俺はエルシャに耳打ちする。
「ところで、この三人を選んだ理由は……?」
「リンドウ様、この三人は三百年前の大戦を生き残った
古参の三翁と呼ばれている方々です。
最悪……失敗でも構わないかなと。」
さらに小声で「十分長生きしたし、不味い血にも慣れてるだろうし」と呟く声が聞こえた。
いや、駄目でしょう! 怖っ!
ヴェルダがあっという間に飲み終え、ようやくこちらに気付いた。
「おお、エルシャ。久しいな。
あぁ……美味かった……。
ん? この人間は何だ?」
エルシャはカーテシーをしてから俺の事を説明しはじめた。
「魔界の者とは異なる体系の魔術を行使して、
ヴェルダ翁が飲んだ血液を提供して下さったお方です。」
ヴェルダが俺を鋭い瞳で見つめる。
エルシャより階級が上とあって凄い迫力だ。
見た目は“翁”と呼ばれるほど老けてはおらず、
中年くらいにしか見えないのに、ガオトとは違った貫禄を感じる。
「初めまして、リンドウと申します。
お口にあった様で何よりです。」
そう挨拶した瞬間、俺の両手がヴェルダの両手で強く握りこまれる。
その瞳は涙に濡れていた。
「ありがとう……! ありがとう……!
リンドウよ! お主のおかげで、
最後に飲んだ酷い血の味を上書できた……!
あぁ……今でも思い出せる。
眠る前に渋々飲んだ、あの言葉に出来ない味……。
いや、あれはもう味と呼んではいけない代物だったのだ!
あれほど、吸血鬼になって後悔した日はなかった!」
エルシャが握られた手を引き離してくれた。
「ヴェルダ爺、他のお二人が控えておりますので、その辺で……。
確か、マハト婆はヴェルダ爺と同じで問題なかったですよね?」
ヴェルダが頷く。
「うむ。ダラムは違ったはずだが……すまぬ、はっきりとは覚えておらん。」
俺はヴェルダを安心させる。
「大丈夫です。それでは二人分をまとめて作りますね。」
そう言って輸血パックを作り出す俺の光景を眺めながら、
ヴェルダが呟いた。
「何だそれは……三百年前の大戦でも、そんな魔術を使える者はおらんかった。
お主は一体……。」
カリンが笑いながら優しく説明する。
「色々な意味で“凄い”お人好しな人間です。」
エルシャが同意する。
「えぇ……本当に、信じられませんね……。」
この後、マハトにもダラムにも同じような反応をされ、
しばらく離してもらえなかった。
その光景を嬉しそうに眺めた後、
エルシャが口を開いた。
「それでは、リンドウ様。
私に着いて来ていただけますか?
上層と城の方にご案内させていただきます。
カリン様もご一緒にどうぞ。」
俺は念のため確認する。
「直接お伺いしてもよろしいのですか?」
エルシャが微笑みを浮かべる。
「えぇ。最早疑う余地もございません。
むしろ、こちらからお願いする立場です。」
俺は頷き、カリンの手を握り、エルシャに着いていった。




