48話 お人好しと吸血鬼の食事
翌日、カリンと吸血鬼の階級ごとの食性について話し合った。
「一つずつ、推測と事実を織り交ぜながら話していこう。
急がば回れだと思うからね。」
カリンが頷く。
俺は一つずつ図を書きながら説明を続けた。
「まず、下級吸血鬼。
人間の味覚も残っていて、血液も種類を選ばない。
普通の食事からも血液からも魔力を蓄えられる……はず。」
エルシャはこう言っていた。
吸血鬼は格が上がるほど、
- 味覚が鈍り、血液以外の食事を美味しいと思えなくなる
- 自分の身体に合わない血液が不味く感じる
逆に言えば、階級が低いほどその特徴は薄い。
カリンが言い得て妙な例えを出す。
「産まれたてで育ちざかり、という感じですね。」
俺はその言葉を肯定した。
「そうだね。実際そうなんだと思うよ。
魔界だと魔力は強さ……生存率に関わる。
食事を選んでいる場合ではないだろうから。
ただ、下層に炊事の気配がなかったのは気になるね。
好んで普通の食事は食べないのか……
屋敷で作られて配給されているのか」
あと、亜人族と同じ特性が当てはまるかは分からないが
安定しても、それ以上の格になれるかは才能もありそうだ。
「そして次に、上級吸血鬼……と呼べばいいのかわからないけど。
人間の味覚もわずかに残っていて、合わない血液も若干不味く感じる……くらいだろうか。」
カリンが顎に指を当てる。
「すごい薄味って感じでしょうか……?
食事から魔力を摂取できない事もない。
自分と合わない血液も飲めない事はない。
人間の味覚で考えると、少し臭みがあるとかですかね……?」
俺はその考えに同意した。
「一旦、そんな感じだと推測しておこうか。
であれば、上級も食事に困る事はなさそうだ。
そして次が……貴族級かな。
ストリクスやエルシャはこの階級なんじゃないかな?」
カリンがクエン酸のやり取りを思い出す。
「クエン酸を入れたとブラフをした時ですね。
お人好しのタケオミさんが飲食に混入?なんて驚きましたよ。」
俺は軽く頭を下げる。
「ごめんね。敵を騙すにはまず味方からかなって……。
それでだけど、貴族級は恐らく味覚がない。
だから液体なら飲めるかもしれないけど、それ以外は辛いだろうね……。
合わない血液も、臭み以上となると本当に鼻をつまんで
何とか飲める……とか、そんなレベルなのかもしれない。」
カリンが図に描き足す。
「その上の階級がどれくらいあるかわかりませんが……
仮に味覚が“無いよりも酷くなる”。
例えばゴムや粘土みたいな味がするとか、
合わない血液は泥みたいに感じるとした場合……。
その上、吸血鬼の血液がRH−やボンベイ型のような希少な型だったら、
魔力の摂取、食事は難しいかもしれませんね。」
俺はその言葉を聞いて、ある疑問が浮かんだ。
「そうだとした場合、吸血鬼はどうなるのか……。」
するとガオトが部屋に入ってきた。
「途中から聞こえていたから、教えてやろう。
とはいっても、魔力を核にする生物に共通する理だがな。
ひとつは自家消費だ。
魔力の最大値は変わらぬが、消費していくことで身体が縮んだり、
徐々に退行して幼児になる。
もうひとつは仮眠……仮死に近い状態で消費を抑える。
……ここ三百年ほど大きな争いもなかった故に、
階級を上げた吸血鬼が増えていてもおかしくはないだろう。」
俺は吸血鬼領で見上げた城を思い出す。
「もしかしたら、城には……そうなった吸血鬼が仮眠しているのかもしれないな。
そういえば、ガオトは吸血鬼領の魔王様を知っている?」
ガオトが眉間に皺を寄せ、舌を出して嫌そうな顔をする。
「あぁ……知っている。
そういえば最近、噂も話も聞かないと思っていたが……成程。
寝ているのかもしれないな。
手強い上にしつこい……面倒な奴だ。
確か階級は真祖だったか……?」
俺はその言葉に反応する。
「真祖……?」
ガオトが説明を続ける。
「ああ。吸血鬼領の魔王は継承でな。
眉唾だが、吸血鬼の神だか精霊だかに選ばれた者が初代魔王になり、
以降は“選ばれた者”に能力や魔力ごと受け継ぐ。
そんな感じの事を、あいつが語っていた。」
俺は合点がいった。
ストリクスが言っていた“唯一の例外”は、それだ。
カリンが頬に手を当てる。
「もしかして、受け継いだ魔王の血液型が希少な型で……
しかも争いがなくなり、大量に人間を補充できなくなった。
その結果、眠りにつかざるを得なくなった。
でも軍事力的に他勢力に露見するわけにはいかない。
それが今回、ゴーレム領と結託しようとした理由でしょうか?」
ガオトが手を叩く。
「仮にそうなら、説明がつくな。
今はしないが、タケオミが来る前にその事実を
私やステュクスが知ったら──
『良い機会だし滅ぼしておくか』
となった可能性はないとは言えん。
魔王以外の強者が揃っていても、取るに足らんからな。」
俺はガオトの言葉に苦笑する。
しかし、この推測が合っていたとして──
どう生かせばいいだろうか。
俺はガオトとカリンと、さらに議論を続けるのであった。




