46話 お人好しと吸血鬼の生態
沈黙が場を支配していた。
だが突然、エルシャが肩を震わせ、お腹を抱えて笑い出した。
「ふふっ……あははっ……
ぷっ……くくっ……リンドウ様、お見事です。」
俺は呆気にとられて、その様子を眺めていた。
「えっと……その……つまり、
当たっているという事でよろしいですか?」
エルシャが姿勢を正し、俺に向き直る。
「えぇ、当たっていますよ。
まさかこの短いやりとりで、吸血鬼の特性を言い当ててしまうとは……。
そうですね。我々吸血鬼は確かに、
吸血鬼としての格が上がると以下のような特徴が強くなります。
ひとつめは、味覚が鈍り、
血液以外の食事を美味しいと思えなくなること。
ふたつめは、自分の身体に合わない血液が不味く感じることです。
ですが──口にすらできないほどではありません。
それでも美味しくはないので、希少な血液を求めたのは事実です。」
俺は言葉を続けようとして……詰まった。
その様子を見て、エルシャが先に切り出した。
「お気づきになったのですね。
はい、そうですね。リンドウ様は確かに、
ゴーレム領と結託して人間界を攻めようとした真意と、
我々吸血鬼の特性を言い当てました……。
それで……? 何か変わりますか?
吸血鬼領で行っている人間の管理が、何か変わることはないですよね?」
俺は頷くしかできなかった。
「そうですね……そこは何も変わりません……。」
隣でカリンが悔しそうに震えているのを見て、
エルシャがまた肩を震わせる。
「決め顔で凄い謎を言い当てたみたいな、
リンドウ様の反応が可笑しくて、思わず無表情になってしまいました!
ふふっ……あぁ……面白い。
ストちゃん牙パキ事件と同じくらい笑えました。」
エルシャが執事を呼ぶ。
「ふふっ、そろそろお開きにしましょうか。
皆様を玄関までお見送りして差し上げて。」
俺とカリンはそれ以上何も言えず、
案内されるまま屋敷をあとにした。
◇
エルシャは、口をつけていたお茶の残りを
味覚が残る下級吸血鬼の執事に飲ませていた。
「どれくらい酸っぱいのかしら?」
下級吸血鬼は首を振った。
「いえ、酸味などありません。
ただの美味しいお茶でございます。」
エルシャが目を丸く開いた後、愉快そうに微笑んだ。
「ふふっ、酸味を加えたというのも大ぼらだったのね。
リンドウ、面白い人間でしたね。」
◇
屋敷を出たあと、俺はカリンと相談を始めた。
まずはカリンが口を開く。
「何も反論できませんでした……。
人間を家畜のように飼っている事も、
親子を切り離す事も。」
俺はカリンの肩に手を置いた。
「そうだね。吸血鬼にも食事は必要だ。
だからエルシャの言い分には正統性があった。
そこは感情と切り分ける必要がある。」
カリンが下を向く。
「これから、どうしましょうか……?」
俺はカリンを慰める。
「今回は吸血鬼領の内情が知れた。
それだけでも収穫だよ。
少なくとも、人間たちが不当に扱われていない事は分かった。
だから、答えを急ぐ必要はないんだ。」
カリンの顔に、少しだけ笑顔が戻る。
「そうですね……まずは目標を決めないと、ですね。」
俺はカリンの手を握る。
「あぁ、そうだ。走り出すにしても、向かう先を決めないとね。
今回は一旦、コウロウに戻るとしようか。」
カリンが同意する。
「そうですね。ガオトさんとも相談しましょう。」
お互いに納得して帰還しようとしたその時──
目の前にストリクスが姿をあらわした。
「待て。お前らに話がある。」
俺とカリンは異界渡りの術を止め、
彼の言葉の続きを待った。




