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46話 お人好しと吸血鬼の生態

沈黙が場を支配していた。

だが突然、エルシャが肩を震わせ、お腹を抱えて笑い出した。


「ふふっ……あははっ……

 ぷっ……くくっ……リンドウ様、お見事です。」


俺は呆気にとられて、その様子を眺めていた。


「えっと……その……つまり、

 当たっているという事でよろしいですか?」


エルシャが姿勢を正し、俺に向き直る。


「えぇ、当たっていますよ。

 まさかこの短いやりとりで、吸血鬼の特性を言い当ててしまうとは……。


 そうですね。我々吸血鬼は確かに、

 吸血鬼としての格が上がると以下のような特徴が強くなります。


 ひとつめは、味覚が鈍り、

 血液以外の食事を美味しいと思えなくなること。


 ふたつめは、自分の身体に合わない血液が不味く感じることです。


 ですが──口にすらできないほどではありません。

 それでも美味しくはないので、希少な血液を求めたのは事実です。」

 

俺は言葉を続けようとして……詰まった。

その様子を見て、エルシャが先に切り出した。


「お気づきになったのですね。

 はい、そうですね。リンドウ様は確かに、

 ゴーレム領と結託して人間界を攻めようとした真意と、

 我々吸血鬼の特性を言い当てました……。


 それで……? 何か変わりますか?

 吸血鬼領で行っている人間の管理が、何か変わることはないですよね?」


俺は頷くしかできなかった。


「そうですね……そこは何も変わりません……。」


隣でカリンが悔しそうに震えているのを見て、

エルシャがまた肩を震わせる。


「決め顔で凄い謎を言い当てたみたいな、

 リンドウ様の反応が可笑しくて、思わず無表情になってしまいました!

 ふふっ……あぁ……面白い。

 ストちゃん牙パキ事件と同じくらい笑えました。」


エルシャが執事を呼ぶ。


「ふふっ、そろそろお開きにしましょうか。

 皆様を玄関までお見送りして差し上げて。」


俺とカリンはそれ以上何も言えず、

案内されるまま屋敷をあとにした。



エルシャは、口をつけていたお茶の残りを

味覚が残る下級吸血鬼の執事に飲ませていた。


「どれくらい酸っぱいのかしら?」


下級吸血鬼は首を振った。


「いえ、酸味などありません。

 ただの美味しいお茶でございます。」


エルシャが目を丸く開いた後、愉快そうに微笑んだ。


「ふふっ、酸味を加えたというのも大ぼらだったのね。

 リンドウ、面白い人間でしたね。」



屋敷を出たあと、俺はカリンと相談を始めた。

まずはカリンが口を開く。


「何も反論できませんでした……。

 人間を家畜のように飼っている事も、

 親子を切り離す事も。」


俺はカリンの肩に手を置いた。


「そうだね。吸血鬼にも食事は必要だ。

 だからエルシャの言い分には正統性があった。

 そこは感情と切り分ける必要がある。」


カリンが下を向く。


「これから、どうしましょうか……?」


俺はカリンを慰める。


「今回は吸血鬼領の内情が知れた。

 それだけでも収穫だよ。

 少なくとも、人間たちが不当に扱われていない事は分かった。

 だから、答えを急ぐ必要はないんだ。」


カリンの顔に、少しだけ笑顔が戻る。


「そうですね……まずは目標を決めないと、ですね。」


俺はカリンの手を握る。


「あぁ、そうだ。走り出すにしても、向かう先を決めないとね。

 今回は一旦、コウロウに戻るとしようか。」


カリンが同意する。


「そうですね。ガオトさんとも相談しましょう。」


お互いに納得して帰還しようとしたその時──

目の前にストリクスが姿をあらわした。


「待て。お前らに話がある。」


俺とカリンは異界渡りの術を止め、

彼の言葉の続きを待った。

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