表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

45/56

45話 お人好しとロジックの綻び

俺はエルシャの説明を何度も頭の中で繰り返していた。

すると、ある疑問がふと浮かんだ。


「エルシャ様、順を追って推測を述べていきます。

 論理の飛躍があるかもしれませんが……

 私の発言に疑問や異議があれば仰ってください。」


エルシャが楽しそうに俺の瞳を見つめる。

口角をわずかに上げ、首を少し傾けた。


「私の発言に対する意趣返しでしょうか。

 ふふ……楽しみですね。わかりました、始めてください。」


俺は首肯し、話を続ける。


「ありがとうございます。では……」


緊張で唾を飲み込む。

これから述べる考えは完全に推測だ。

当たっている保証はどこにもない。

俺の緊張を察して、カリンがそっと手を握ってくれた。


「エルシャ様は、ゴーレム領と結託して人間界を攻めようとした理由の一つに

 “侵略先を制御するため”と仰いましたね。」


エルシャが目を丸くする。


「えぇ、そうですね。

 ですが、それは先ほどリンドウ様も間違っていないと

 ご納得されましたよね?」


俺は両手を組み、顎を乗せる。

少しは貫禄が出るだろうか。


「えぇ……間違っていません。

 ただし、それは“私がゴーレム領の食糧問題を解決する前まで”なら、です。


 ですが──弟のストリクス様は、私が解決しようとしたその日に

 “私を誘拐する”という手段を取りました。


 これでは……まるで、

 ゴーレム領よりも吸血鬼領の方が、

 人間を率先して攻めたかったように見えてしまう。」


俺はストリクスの眉間に、一瞬だけ皺が寄ったのを見逃さなかった。

エルシャは額に指先を当て、困ったような仕草をする。


「それは……ストちゃんが自分の任務を果たすためにムキになった、

 というのもありますが。

 先程も申し上げた通り、自国の食糧事情と品質を改善し、

 供給を安定させる良い機会だと考えたからです。」


俺は首を振る。


「それは確かに一理あるのでしょう。

 いえ……一理ある“ように”聞こえます。


 ですが、私が見た限り──食料……というのは少し憚られますが、

 吸血鬼領の人間たちの管理は安定しているように見えました。

 それほど急いで拡大する必要があるとは思えない。


 もし本当に食糧が不足しているのなら、

 採血の周期を二週間から少し短くする、

 誘致する人数を増やす……

 先に出来る施策はいくらでもあるはずです。


 聡明なエルシャ様が、それに気付かないとは思えません。」


俺は姿勢を正し、続ける。


「もし──吸血鬼領が持ち掛けたことがきっかけで

 人間界を攻めたという話が人間たちの耳に入れば、

 今の管理にも亀裂が入る可能性がある。


 それでも攻めようとした……という事は、

 “吸血鬼領は、一度に大量の食料を確保する必要があった”

 そう考えるのが自然ではありませんか。」

 

エルシャの口角は上がったまま、

しかし瞳からは笑みが消えていた。


「リンドウ様、面白い推測ですね。

 ですが──食料事情が安定しているのに、

 大量の食糧確保が必要というのは矛盾していませんか?

 それに、それほど食料が必要なら、

 ゴーレム領を置いて吸血鬼領だけで人間界を攻める事だって可能ですよね。」


エルシャが多弁になり、

聞いてもいない事まで答え始めた。


──これは、当たっているかもしれない。


「先に、“吸血鬼領だけで人間界を攻める”という点についてお答えします。

 これは恐らく不可能でしょう。

 魔界の軍事力の均衡がそれを物語っています。


 仮に吸血鬼領が単独で人間界を攻めた場合、

 その隙に吸血鬼領は他領から攻められるリスクが高すぎる。

 だからこそ──ゴーレム領と手を組む必要があった。」

 

エルシャは笑顔に戻り、カップのお茶に口をつけた。


「軍事力まで理解しているなんて……

 やはり、リンドウ様は聡明ですね。

 それで、量の矛盾については?」


俺は両手を膝に置く。ここからが正念場だ。


「エルシャ様は仰いました。

 吸血鬼は血液の種類によって、口にした時に

 “合う・合わない”を感じ、それには個人差があると。


 もしかして──それは酷ければ、

 口にすらできないものなのではありませんか?」


エルシャの瞳がわずかに揺れた。


「そして私は知っています。

 血液の種類は四つ以上……

 時に“希少な型”が存在することを。


 だから──エルシャ様。

 あなたが必要としていたのは量ではなく……

 質……いえ、“種類”だったのではないでしょうか。」

 

俺は頭を深く下げる。


「そして、お詫び申し上げます。

 先程、私が提供したお茶には……大量のクエン酸、

 つまり強い酸味の成分を溶かしていました。

 心の準備なしに飲んだ場合、到底飲める代物ではありません……。」


俺はエルシャ様に問いかける。


「吸血鬼は──味覚がないのでは?

 だから血液以外から栄養、つまり魔力を摂取することが

 容易ではない、または不可能な生物なのでは……?」


気が付けば空は曇り、テラス席は日陰に覆われ……

エルシャが無表情で、俺の顔を見つめていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ