38話 お人好しと吸血鬼領
ガオトが問いかけてくる。
「それで、どのように吸血鬼領に向かうつもりだ?」
俺は腕を組みながら答える。
「そうだね……吸血鬼領のストリクスに俺の顔は知られているから、
異界渡りの術で潜入して、その後は魔術で姿を消す。
まずは、人がどのように暮らしているかを確認かな……?」
メティスが目を見開く。
「タケオミ様なら出来ても不思議ではありませんが……
姿を消すなど可能なのですか?」
俺は万能魔術で実演することにした。
前後左右、周りの景色を映し出す“全身スーツ”を着るイメージだ。
「光学迷彩!」
カリンが呟く。
「すごい……完全に同化していますね。」
俺は説明を補う。
「実際に消えてるわけじゃないから、
凝視されたり、触られたり、気配を探られるとバレるけど……。」
ガオトが微笑む。
「ばれたらその時はその時だ。
存分に暴れてくればよいだろう?」
俺は魔術を解除して手を振る。
「するわけないだろう!
ゴーレム領に行く時も似たようなやり取りしなかったか……?」
メティスが両手を合わせる。
「まぁ、そうなのですか?
ですが、くれぐれもお気を付けください。
タケオミ様に何かあったら……
私とガオトが吸血鬼領など灰にしてしまいますから。」
俺はメティスの手を自分の手で包み込む。
「そんな恐ろしい事を満面の笑顔で言わないで……。
気を付けるよ。」
ガオトがカリンの方へ視線を向ける。
「カリンもだ。存分に気をつけよ。
タケオミ一人が無事なら良いというわけではない。」
カリンが頭を下げる。
「ガオトさん、ありがとうございます!」
俺は二人に手を振りながら、異界渡りの術を使う。
「それじゃあ、行ってくるよ。
遅くても夜には連絡するから。」
そしてカリンと二人で吸血鬼領の外れに移動した。
移動してすぐ、カリンに突っ込まれる。
「よく考えたら、こうして移動できるなら
毎日戻ればよくないですか?」
俺は手を叩く。
「言われてみれば確かに……。
まぁ、でもほら。仮に旅行とかでそれをすると、
何というか“没入感”というか、削がれるじゃないか?」
カリンが苦笑する。
「言わんとする事は理解できなくもないですが……。
まぁ……新婚旅行とでも考えておきます。」
俺はその言葉に反応する。
「新婚旅行か……。
そういえばガオトともメティスともしていないな。」
カリンが笑う。
「あら、そうだったんですね。
確かに新婚旅行に行くような場所もなさそうですしね。」
「そうだなぁ……可能なら元の世界の温泉とか、
連れて行ってみたいけど……。
さて、そろそろ姿を消しておこうか。」
「そうですね。建物があるのはこちらの方角みたいですね。
他に市街地はなさそうです。」
俺は頷き、カリンが指さした方向へ二人で歩いていった。
「大きな城ですね……。
ブラン城よりも、もっと遥かに高いです。」
「そうだね。城の麓に城下町らしき大きな都市があるようだ。
吸血鬼領は都市国家のような統治になっているのだろうね。」
俺は市街地を観察しながら、小声でカリンと話し合う。
「どこに人間が住んでいると思う……?」
「そうですね……お約束で言えば、城には魔王や貴族、側近が住んでいて、
仮にそれを上層と呼ぶなら、中層に一般の吸血鬼。
下層に人間……だと思うのですが……ただ……」
「それだと、人間が脱出しやすいか……。
そもそも街に住めているのかもわからないが……。」
透明化しているが、カリンから戸惑いの気配が伝わってくる。
「それもそうですが、もっと重要な事に気付きました……。」
俺は息を飲む。
「えっと、何かな……?」
「私たちって、外見で吸血鬼と人間の区別……つきましたっけ?」
俺は、ストリクスも牙を出すまでは人間にしか見えなかった事を思い出す。
「あっ……確かに……。」
俺たちの吸血鬼領探索は、早速、暗雲が立ち込めていた。




