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39話 お人好しと潜入捜査

魔術の携帯電話で、俺はカリンの脳内に話しかける。


「とりあえず、街を下層から順に観察してみようか……。

 何かわかるかもしれない。」


「そうですね……。

 もしかして、わかりやすい特徴を持つ可能性もありますし。」


二人の意見を合わせてから、下層の入り口まで歩いた。


「入口の近く──向こうに見えるのは耕作地……かな?

 それなら下層が人間たちの住居か……?」


カリンが静かに続ける。


「どうでしょう。あえて遠ざけて、

 吸血鬼の支配地域を通り抜けないと食事にありつけないようにして、

 逃亡を監視している……なども考えられますし。」


俺は思わず絶句する。


「カリン、中々鋭いというか……

 中々酷い方法を思いつくね?」


カリンから非難の声があがる。


「わ、私はあらゆる想定をしただけで……!

 まるで私が非道みたいな言い方はやめてください!」


俺は必死でなだめる。


「も、もちろんわかってるよ。

 それじゃあ、散策してみようか。」


「もう……次そんな扱いしたら、

 何も言わなくなりますからね!」

しばらく歩きながら、お互いに気付いた事を言い合った。


「カリンの予想、当たっているかもしれない……。

 下層の家には煙突がない。

 それに全く炊事の臭いがしない……。

 食事時を外れてるとはいえ、どこかの家くらいはあっても

 おかしくないはずだ。」


カリンが同意する。


「確かに、そうですね。

 それに先程から何人かとはすれ違いましたが……

 子供は居ましたが、高齢者が居ませんでした。」


「よし、下層は恐らく吸血鬼という推測で動こう。

 それじゃ次は中層に向かおうか。」


お互い姿を消しているので、見失わないように

カリンと手を繋ぎながら中層へ向かう。

そこで、意外な光景を目にした。


「右手に見えるのは……広大な牧草地……でしょうか?

 柵がありますね……?」


「左手が中層の街の入り口みたいだけど……

 区画が分かれているね。入口が4つある。

 これは……もしかして……」


カリンも気付く。


「血液型で分けているんでしょうか。

 味が違うとか……。

 他に理由があるかもしれませんけど。」


入口で二人で話し合っていると、

中層の街に向けて、どこからともなく声が響いた。

まるで案内放送のようだった。


「皆さん、本日の運動の時間です!

 健康的な食事と適度な運動は、皆さんの義務です。

 本日もしっかり頑張りましょう!」


しばらく眺めていると、中層の家々の扉から人が出てきて

牧草地へ向かっていった。

そして思い思いに走ったり、ボールを蹴り合ったりと

運動を始める。


「さぁ、運動の後はお食事の時間です!

 配給しますので、入口で並んでください!」


入口に立つ吸血鬼と思われる人物に、

運動後の人々が列をなし、食材や食事そのものを受け取っている。

手にすると笑顔で家の中へ戻っていった。


俺とカリンは、その異様な景色に絶句していた。


「これは……まるで……牛じゃなくて、

 人間を飼っている……人間牧場じゃないか。」


カリンが肯定しながら続ける。


「ですね……。

 きっと健康的な体から採れる血の方が美味しいのでしょうね……。

 私たち人類が家畜を飼うのと同様に……。」

 

俺はカリンに問いかける。


「見ていたか……?

 牧草地から家に帰るまでに、彼らが浮かべていた表情を……。」


カリンが頷く。


「えぇ……信じられませんが、皆……笑顔でしたね……。

 身なりも綺麗でした……。」


「あぁ……食事が不衛生なのが嫌なのは、きっと吸血鬼も同じなのかな。

 そして、労働という義務から解放されて、

 ストレスを感じず毎日を過ごす……。

 それは“幸せ”に感じるのかもしれない。」


カリンが静かに問う。


「どうしますか……?

 ここに住んでいる方々は、解放を望んでいないかもしれません。」


俺はカリンの手を強く握る。


「もう少し、観察してみよう。

 答えを出すにはまだ早い気がするよ。」


この“人間牧場”という箱庭の闇を暴くため、

俺たちは互いに頷き合い、吸血鬼領の捜査を続けるのであった。

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