36話 お人好しと新たな出立
さらに半年が経過した頃、
コウロウ宮殿の外壁、居住区、王座が完成した。
「やっとガオトに相応しい部屋と寝所が出来たよ。
これもカイやライ、デイン達が頑張ってくれたおかげだ。」
ガオト様が満足そうに王座に座る。
「木造の小屋から随分と豪奢になったものだ。
あれはあれで風情があって嫌いではなかったがな。
それにしても、まだ完成ではないのか?」
俺はガオト様の横に立ちながら答える。
「そうだね。まだ行政区画や大ホール、ゲストハウス、庭園も必要だと思う。
ちなみに……住んでいた小屋は残しているよ。
“魔王が住んでいた小屋”として観光名所になるかなって。」
ガオト様が眉をひそめる。
「そんなもの、誰か興味があるのか?」
「憧れの魔王様が住んでいた住居だからね。
後世には人気が出ると思うよ。」
俺は現代の城や宮殿などの史跡を思い浮かべる。
「そんな物か……。
そういえばミリルにも宮殿を建てているのだろう?」
俺は首肯する。
「ミリルには元々、大広間のある石造りの建物があったから、
増改築して王城にしているところかな。」
どちらにも、なぜか側妃が過ごす小宮殿が作られている。
カリンはコウロウの小宮殿で暮らす予定だ。
「オスマン帝国のトプカプ宮殿……ハレムみたいですね?
いや、普通の一戸建てで十分だったんですけど……。」
そんな感想を零していた。
──噂をすれば、カリンが姿をあらわした。
「ガオトさん、タケオミさん。
貨幣経済……もどきみたいなものですが、
思っていたよりは受け入れられているようです。」
ガオト様が腕を組む。
「あぁ、タケオミ達の居た世界や、人界で行っている仕組みだったか?」
「そうだね。税──国に納められる物々を、
まずは塩・米・麦と“メダル”だけに絞った。」
カリンが補足する。
「はい。次に、労働に対して国がメダルを支給します。
そして支給されたメダルは、個人が営むお店で使用したり、
物と交換が可能としています。
メダル1枚ならパンやケーキ、メダル5枚なら衣服と交換できます。」
俺がさらに続ける。
「メダルはコウロウとミリルの共通貨幣として、
どちらでも使用可能にしている。
ちなみに国営の商店も開いているから、
価値のある物を売買すれば、そこでもメダルを入手できる。」
ガオト様が人差し指と親指でメダルを摘まむ。
「しかし、人界にはもっと色々な貨幣があったと思うが?」
恐らく金貨、銀貨、銅貨あたりだろう。
詳しくは人界に行ってみないとわからないが……。
「そうだね。恐らく人界にはもっと色々な貨幣があるだろうね。
俺やカリンの居た世界でも、国ごとに作られているよ。
ただ、物々交換以外に慣れてもらうことと、
自分の仕事に価値がある事を理解してもらう事が、まずは大事なんだ。」
カリンが唇に指を当てて考え込む。
「そうですね。メダル1枚だと色々問題も出ると思いますが、
その辺はトレードオフと割り切るしかないですね……。
それにしても、一般企業の元主任と元事務員が
国家形成と貨幣経済を担うのは荷が重すぎませんか……?」
そう言って顔を引きつらせた。
「それについては、全くの同意だよ。
そのうち人界から有能な人物をスカウトしたいものだね……。」
「タケオミさんと私が胃痛で倒れる前に……と思いましたが、
タケオミさんは不老不死ですし、病気や怪我は魔術で治療できるんですよね……。」
ガオト様が王座から立ち上がり、
俺とカリンを見て笑顔を浮かべる。
「私から言える事は、気楽にすると良い。
何かあっても元に戻せば良いだけだ。
責任は全て私が取ってやる。」
ガオト様が有能すぎる上司すぎて、
カリンが手を組んで拝んでいる。
「ガオトさん、素敵です……。
元の会社の上司に爪の垢を煎じて飲ませたい……。」
カリンの言葉に、
“事務も色々大変だったんだろう……”と
察するに余りあった。
その夜、宮殿に用意した一室。
ガオト様、メティス様、カリン、そして俺の4人でテーブルを囲んでいた。
ガオト様が酒をあおる。
「やはり、晩酌はこれくらいの距離が良い。
宮殿に用意された台は長くて遠すぎる。」
メティス様が同意する。
「そうですね。
私もこれくらいの距離の方が、
タケオミ様の顔が近くて嬉しいです。」
カリンは別の意味で頷く。
「アニメで見る貴族の食事風景みたいな
あの長いテーブルは、私も肩が凝りますね。」
まぁ……俺も宮殿より六畳一間の方が落ち着くが。
俺は話を切り出す。
「そろそろ次の旅に出ることを考えている。
行き先だが、吸血鬼領の様子を見てみたいんだ。」
カリンが反応する。
「人間を奴隷……食料にしているんですよね?」
メティス様が答える。
「あくまで噂だがな。
どのように扱っているかは、余も見たことがない。
それでリンドウ様は、それらを解放なさるおつもりですか?」
「絶対に、というわけではないかな。
解放ありきで向かうつもりではないよ。
ドワーフとゴーレムみたいに、協力関係かもしれないし。」
ガオト様が豚カツを飲み込んでから口を開き、
カリンの方を見る。
「わかった。
それならカリン、お前が着いて行け。
タケオミが増やさないように、お目付け役は任せたぞ。」
カリンが無言で頷く。
「わかりました……。
ガオトさんは亜人族で、ステュクスさんはゴーレムなので、
吸血鬼に怪しまれない同行者として、
私が適任という事ですね。」
俺は慌てて首を振る。
「何があるかわからないから、
俺一人で行った方が……」
三人から一斉に否認される。
「駄目だ。」
「駄目です。」
「駄目よ。」
「……良いと思うんだ。
わかりました。」
こうして、俺はカリンの同行を条件に、
吸血鬼領へ向かうことを許された。




