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34話 お人好しと恋情の気付き

それから一年後、コウロウとミリルは

村ではなく街や市と呼べるまでに、順調な発展を遂げていた。

労働力という点で、亜人族やゴーレム達は

人間とは桁外れに秀でていたからだ。


「まさか、パン屋やケーキ屋を作ってしまうとはね……。

 俺にはなかった視点だよ、瀬田さん。」


瀬田さんが俺を睨む。


「林同主任……じゃなくてタケオミさん。

 カリンと呼んで下さい。甘味は大事ですから。」


俺は苦笑しながら指摘する。


「カリンだってまだ間違えるじゃないか。」


そう言って二人で笑いあった。


──なぜ、こんな事になったか。

それは時間が遡ること九カ月前。

いつもの晩酌の時間、

メティス様が俺の膝を枕にしながら問いかけてきた。


「ところで、ゴーレム領の食糧問題解決ですが、

 どのようにして思いついたのですか?」


俺は頭を掻きながら答えた。


「えっと、俺一人じゃ思いつかなくて……

 前の世界にいる知人にヒントを貰いました。

 そういえばその時に、この世界に来たいと

 相談されたのですが……」


メティス様の声が低くなる。


「へぇ……?

 ちょっとその時の話を詳しく教えて頂けますか?」


ガオト様は無言で俺を見つめている。


「あ……はい。」


俺は瀬田さんとのやり取りの一部始終を、二人に伝えた。


ガオト様が溜息をついた後、

いつの間にか座り直したメティス様と会話をしていた。


「ガオトよ。

 まさか善行の旅に出る前から、

 既に増えているとは計算外ではないか?」


「そうだな。タケオミは全く気付いていないが、

 遅いか早いかの問題だろうな……。」


「余としても、自ら行動せぬ女に

 塩を送るような真似はしたくないが……。

 今回の件で言えば、借りがあるのも事実。

 気付かせてやるか……?」


俺は二人に恐る恐る問いかける。


「あの……何の話だろうか?」


ガオト様が頬杖をつきながら、

面倒だと言わんばかりに話しはじめた。


「この朴念仁が……。

 その女はタケオミに惚れているのだ。」


メティス様がそれに続く。


「こちらに呼ぶ方法ですが……

 その“カタログ”になら乗っている可能性が高いと思います。」

 

俺は二人の迫力に、「そんな事あるはずない」と

否定することは出来なかった。


ガオト様が諦めたように話す。


「タケオミの好きなようにしろ……。

 業腹ではあるがな。」


俺はガオトの手を握る。


「ありがとう。話してくるよ。」


そう言って家を出て、人気のない街の外れまで歩いた。

まずは神様から貰ったカタログギフトの確認だ。


「えっと……残りが189,998で、

 前に見た時は気付かなかったけど……

 異世界召喚がある……。

 被召喚者の許可がある場合は10,000。

 意思を無視する場合は300,000か……。」


異世界に呼ぶ方法を確認したところで、

俺は瀬田さんと万能魔術で通話を始めた。


「もしもし、林同です……。」


「はい、瀬田です。お久しぶりです。

 ゴーレム領の食糧問題は解決したんですか?」


「うん。瀬田さんのヒントのおかげで

 良い方法が思いついてね。

 ごめん、それなのにお礼が遅くなって。」


「いえ、大したことしてませんから。

 それにしても宇宙って凄い規模ですね。」


「本当にね。ただのおじさんサラリーマンが、

 随分と身の丈に合わないことをしでかしたよ。」


「ふふっ……。」


そして一瞬、沈黙が続いた後。


「それで、なんだけど。」


「あの……!」


「あっ……ごめん、どうぞどうぞ。」


「いえ、リンドウ主任からお先に。」


「それじゃ、私から話すけど……

 結論から言うと、瀬田さんをこちらの世界に呼ぶ方法が分かった。

 ただし、その為には瀬田さんに承諾……同意してもらう必要がある。」


「嘘……本当ですか……?」


「あぁ……。それで瀬田さんの言おうとしたことは?」


「はい……あの……私、

 林同主任の事が好きです……。

 もしそちらの世界に行ったら、

 お付き合いしていただけますか?」


「ごめん……。」


「……そうですよね。私なんか──」


「いや、そういう意味の“ごめん”じゃないんだ。

 こんな事聞くのは野暮なんだろうけど……

 私なんかのどこが良いのか、聞いてもいいだろうか。」


「ふふっ、本当に野暮ですね。

 そうですね……私って幼い頃に父を亡くしていて、

 父との記憶がないんです。

 母は私を大事に育ててくれましたが、

 それでも父親に憧れみたいな思いがあったのかもしれません。」


俺は無言で聞き続ける。


「林同主任を見て、初めて思った感想は……

 “優しいお父さんになりそうな人だな”って。」


「瀬田さん。君のその感情は……」


「わかっています。でも、林同主任がいなくなってから、

 憧れの中に恋心があったことにも気づいたんです。

 どっちが何割なのかは、自分でもよくわかりませんけど。」


俺は正直に打ち明ける。


「君の気持ちに応えていいものか……。

 大変、言い辛いんだが……

 私はこちらの世界で……

 既に2人の妻が居るんだ……。」


「えっ……最低……。」


電話越しに、氷点下を超えるような冷たい声が響いた。

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