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33話 お人好しと協魔連合

俺はドゾムさんとレティアさんの荷ほどきを手伝いに来た。


「すみません、住居は建築が終えた空き家があるのですが、

 鍛冶工房などはもうしばらくお待ちください。」


ドゾムさんがあご髭を撫でながら答える。


「それは仕方ないじゃろうが……どれくらいかかるんじゃ?」


俺は腕を組みながら答える。


「そうですね……カイとライに工房の設計図面を渡して、

 建築の優先度を上げてもらうとしても数カ月……。

 その間はレティアさんとの新婚生活を満喫してもらって……」


ドゾムさんに照れながら背中を叩かれるが、

レティアさんは嬉しそうに微笑んでいる。


「な、何を言っておるんじゃ! ばかもん!」


とはいえ、流石に数カ月はな……。

俺が万能魔術で建設する事も可能だが……。


そこで、ある事を閃いた。

折角、魔術で解決するなら慣れた環境が良いだろう。


「ドゾムさん、着いて来てください。」


俺は村から少し離れた鍛冶工房建設予定地まで案内すると、

異界渡りの門を開き、ゴーレム領のドゾムさんの工房の前で

万能魔術を行使する。


「家曳き(ハウス・ムービング)!」


そして家ごと門を通ると、工房の引っ越しを終えた。


ドゾムさんが呆れた顔をしている。


「お主、本当に何でもありじゃのう……。」


「微調整は必要ですが、これで工房の問題も解決ですね。」


ドゾムさんがこちらの生活に慣れたら、

ゆくゆくは亜人族から鍛冶の弟子をとったりもして欲しい──

そんな希望を伝えた。もちろん志願者がいればだ。


……そして、そろそろ話題が変わっている事を期待して、

ガオト様とメティス様の元に戻った。


「それで……紅狼の王よ。」


ガオト様が顔の前で面倒だとばかりに手を振る。


「ガオトでいい。私もステュクスと呼ぶ。」


「分かった、そうさせてもらおう。

 ガオトよ、それで……タケオミ様の事だが……」


どうやら俺がいない間に、

ガオト様からメティス様へ、

俺の本名や出自が情報共有されたようだった。


メティス様が俺の方を振り向く。


「おかえりなさい、タケオミ様!」


ガオト様が俺に晩酌の準備の合図をする。

俺が首肯すると「フッ」と微笑んだ。


色々と思う所もあるだろうに、

ガオト様には本当に頭が上がらない。


「メティス、ゴーレムは

 鉱石以外って飲食可能ですか?」


「可能です。とはいえ栄養にならない為、

 嗜好品扱いですね。」


なるほど。

嗜好品であって、生物としての欲求に結びつかない。

味や香りは理解できても、渇望には至らない──そんな感じだろうか。


俺は晩酌の用意を三人分。

それとメティス様にだけ、

ミスリルを薄く平らにした“お煎餅”を用意した。


ガオト様が杯を一息で空にする。


「タケオミ。魔王二人の手を組ませる。

 それも自分の女にするという前例のない偉業を成し遂げたわけだが……

 今後、どうするつもりだ?」


俺は正座しながら答える。


「身に余る光栄としか言いようがない。

 そうだね……まずは名前をつけたいと思う。」


メティス様が俺の空いた杯に酒を注ぐ。


「名前……ですか?」


「うん。いつも“亜人族の村”とか“ゴーレム領”と呼ぶのも

 分かりづらいし、今後の発展への希望も込めて。

 ガオトが住んでいるこの村と、

 メティスが住んでいる地域に名前を付けたいと思う。

 やがては、それを首都や国の名前にするつもりだ。」


メティス様が手を叩く。


「良いですね! それでは是非、タケオミ様が命名して下さい!」


ガオト様が肴を口に運ぶ。


「亜人族の村もだ。タケオミが決めろ。」


俺は頭を悩ませて、まず亜人族の村の案を出す。


「紅狼族から取って“コウロウ村”というのはどうだろう。

 いつか首都にして、“コウロウ国”として興すつもりだけど。」


ガオト様が尋ねる。


「その名前にした理由は……?」


「いつかガオトが亜人族の村の魔王を止めたとしても、

 国を興し発展させたのは誇り高き紅狼族のガオトだと

 皆の記憶に残るようにしたいからかな。

 それに……俺はガオトの美しい真紅の髪と尻尾が好きだしね。」


ガオト様が俺の手を握る。


「悪くない。それで良い。」


ガオト様の尻尾が揺れている。

あれは甘えたい時の合図だった。

メティス様が居るから我慢しているんだろうな……。


メティス様が目を輝かせる。


「それではゴーレム領は何でしょう?

 リンドウ村でしょうか?!」


俺は苦笑する。


「いやぁ……私の名前をつけるつもりはないかな。」


とはいえ、どうしよう……。

ステュクス様、メティス様、ミスリルゴーレム……。


俺は躊躇いながら案を出してみる。


「“ミリル”というのはどうでしょう?」


ミスリルゴーレムの“ミスリル”から、

名前に共通する“ス”を抜いてみた。

なぜ抜いた?と言われると理由はない。

語感的に悪くないかなと思っただけだ。


メティス様が手を叩く。


「わかりました! ミリルですね!

 帰ったら配下達にそのように周知徹底します!」


「理由は聞かないのでしょうか?」


メティス様がきょとんとした顔で見る。


「私の身体、ミスリルゴーレムの“ミスリル”から

 名前にある“ス”を抜いたのですよね?

 少々、安易だとは思わなくもありませんが……

 タケオミ様が決めたという事実が何よりも大事なのです!」


俺の胸に、“安易だとは思わなくもありませんが”という

言葉のナイフが突き刺さる。


「す……すみません、ですよね。」


メティス様が俺の頬に手をあてる。


「謝ることはない。言ったであろう?

 愛しいそなたが決めたという事が、

 何よりも貴いのだと。」


俺はその色気に思わずゾクゾクと息を呑んだ。

一息吸って話を続ける。


「そして、コウロウとミリルで互いに手を取った、

 相互不可侵・互助の関係を……

 “協魔連合”として結びたいと思います。」


ガオト様が首肯した。


「良いだろう。となれば次に決める事は一つだな。」


メティス様も頷く。


「そうだな、ガオト。」


ガオト様が指を三本立てる。


「コウロウに三週間、ミリルに一週間だ。」


メティス様が異議を申し立てる。


「それは余りではないか?

 コウロウに二週間、ミリルに一週間。

 どちらかで一緒に一週間でどうだ?」


ガオト様が唸る。


「……仕方ない。それで手を打ってやる。」


「礼を言うぞ、ガオト。

 今日はそなたに譲ろう。」


「当たり前だ。私が本妻だからな。」


俺は問いかける。


「あの、二人とも何の話をして?」


二人が同時に答える。


「タケオミの滞在スケジュールだ。」

「タケオミ様が月にどちらで過ごすかです!」


俺は二人から伝わる愛情に、

嬉しさと恥ずかしさと、若干の重さを感じていた。

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