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31話 お人好しと修羅場

俺はゴーレム領から亜人族の村へと家路についていた。

異界渡りの術を使えば一瞬で帰れるのだが、

色々と考える時間が欲しかったのだ。


同行者は、ゴーレム領で勧誘したドゾムさんと、

何故かレティアさん、そしてメティス様。


俺はドゾムさんに耳打ちする。


「ドゾムさん……ひょっとして、レティアさんとそういう仲に?」


ドゾムさんが顔を赤くする。


「う、うむ。

 レティアが死にかけた後に色々とあって……。

 本人もマルカと距離を置いた方が良いと考えてな。」


「なるほど……隅におけませんね。」


ドゾムさんが薄目になる。


「魔王様を口説き落としたお前さんに言われたくはないぞ。」


盛大なブーメランが刺さる。


「うぐっ……口説き落としてはいないのですが……。」


俺は失礼と思いながらも、レティアさんに聞いてみた。


「あの……レティアさんも性別を変えられるのですよね?」


レティアさんが声を落として答えてくれた。


「そうですね……ですが、なりたいと思えないといいますか。

 できればなりたくない、という感情ですね。

 “出来る”という事と“やりたい”と思える事は一致しませんから。

 なので、もしずっと男性だったゴーレムが

 望んで女性になるとしたら……

 それはそう思える程の強い思いが芽生えるきっかけが

 あったという事でしょうね。」


俺は何とも言えない顔をする。


「……なるほど。答えてくださりありがとうございます。」


レティアさんが耳打ちする。


「気になる事があるのでしたら、ご本人に聞いてみては?

 喜ぶと思いますよ?」

 

鼻歌を歌っているメティス様に近づくと、腕を組まれ、

満開の花を咲かせたような笑顔で話しかけられる。


「リンドウ様、何でしょうか!」


俺は正直に、疑問に感じている事を一つずつ聞いてみることにした。


「メティス様が同行して下さるのは大変心強いのですが、

 石壁の防衛は大丈夫なのでしょうか?

 本来は、メティス様が魔力を張り巡らせているのですよね?」


「配下のミスリルゴーレム百人に分業させてきたので大丈夫ですよ!」


……つまり、普段は百人分をメティス様一人で賄っていると。

ガオト様もそうだが、やはり魔王は規格外なんだなぁ……。


俺は言葉を選んで確認する。


「あの……ステュクス様とメティス様は同じなんでしょうか?

 どちらの名前でお呼びするのがよろしいですか?」


メティス様がくすりと笑う。

美しいのに可愛いのが恐ろしい。


「同じ人格ですよ。話し方は性別に引っ張られてしまいますが、

 意識すればどちらでも可能です。」


メティス様の表情から笑みが消える。


「牢でステュクスの……男性の姿を兄と呼び、

 自身を妹と呼んだのは、リンドウ。

 そなたを謀る為だった。許せ。

 女性の姿をメティスと名乗ったのも、あれが初めてである。」


そして、元の笑顔に戻る。


「だからステュクスでもメティスでも、

 お好きに呼んで頂いて構いません……。

 ですが、“私をメティスと呼んで良いのはリンドウ様だけ”です。

 なので、メティスと呼んで頂ける方が嬉しいです。」

 

そう言われては、

女性のメティス様をステュクス様と呼ぶ気には、もうなれなかった。


「わかりました。メティス様と呼ばせていただきます。」


メティス様が俺の腰に手を回し、抱きしめてくる。


「嬉しいです。ありがとうございます。

 ですが……私の事は“メティス”とお呼びください。

 敬称など不要です。」


俺は左手で頭の後ろを押さえる。


「それは……恐れ多いので。

 すみません、頑張ってみますので……お時間をください。」


メティス様がふくれっ面になる。


「仕方ないですね。約束ですよ?」


しばらく歩き続け、

ようやく亜人族達が住む村の入り口が見えてくると──


そこには、腕を組み仁王立ちをするガオト様が居た。


俺の人生で最大の修羅場が始まった。

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