30話 お人好しと虫食い穴
俺は鉱山に着くと、ステュクス様を入り口で待たせた。
「準備してまいります。少々お待ちください。」
◇一時間後
俺はステュクス様と配下の皆さんを招き入れた。
ステュクス様が険しい顔をする。
「鉱山の入り口の先に、このような部屋があったか……?
リンドウ……そなた、何を企んでいる。」
俺は真剣な顔で見つめ返す。
「企んでなどいません。
ステュクス様、この部屋を抜ける前に
その服にお着換えください。
鉱石を出した影響で、ゴーレムでも危険かもしれない
ガスが噴き出しております。
……私やドワーフ族は、その服がなければ間違いなく死に至ります。」
ステュクス様が胡乱げな顔をする。
「まあ……良い。メティスがそなたを信じておった。
余も信じてやるとしよう。」
俺は心の中でメティス様にお礼を言う。
これで第一関門は突破できた。
全員が服を着替え終わると、俺は入口の扉を開いた。
ステュクス様が絶句する。
「な……んだ……ここは……?
何もない……ただ岩と砂だけが続く世界だと……?」
俺は静かに答えた。
「はい……こちらは宇宙にある星です。」
俺は万能魔術で「虫食い穴!」を作り、
人類未踏の地──この世界にある“月のような星”と繋げたのだ。
ステュクス様たちに着替えさせたのは、宇宙服だった。
俺はステュクス様に説明を続ける。
「ステュクス様。空の上には何があるか……
考えたことがありますか?
私たちの住む世界を外から眺めた時、どうなっているかを。」
ステュクス様が目を見開く。
「これがその答えだと言うのか……?
そなたは一体……まさか神などと言うのではあるまいな?」
俺は首を振る。
「私は神などではありません。
ただ、空の先に何があるかを知っていただけです。
この星は残念ながら、生物が育つ環境ではないので、
ゴーレムと言えど住むには適さないでしょう。
ただ、だからこそ──
この場所にある鉱物は採り尽くしても問題ない。
すべて採り尽くすとしても、恐らく何億年とかかるでしょう。」
ステュクス様が言葉にならない声を漏らす。
「こんな事が……こんな解決方法が……
誰も犠牲にせずに済むと言うのか……。」
ステュクス様が跪き、頭を下げる。
「そなた……いや、リンドウよ。
余は到底返せぬ借りが出来た。」
俺は慌てて座り、頭を上げさせた。
「頭をお上げください。
さぁ……本日は一度帰りましょう。
あぁ、そうだ。
鉱山の入り口は厳重に管理してください。
特にドワーフ族には、この服なしで立ち入る事がないようにと。」
「そうだな……そうするとしよう。
ああ……これほど心が軽やかなのは久しぶりだ。」
◇翌朝
俺はステュクス様に呼ばれ、大広間に来ていた。
そこにはドゾムさんとレティアさんも居た。
ステュクス様が椅子から立ち上がり、
俺の二メートルほど前まで歩み寄ってくる。
「リンドウよ。ゴーレム領はそなたによって救われた。
余に出来ることなら、何でも望みを叶えよう。」
俺は少し考え込む。
「でしたら……亜人族領と手を組んで頂けますでしょうか。
侵略のためではなく、お互いに助け合うために。
もしよければ、ドゾムさん以外のドワーフの皆さんも
技術支援として派遣していただけると助かります。」
ステュクス様が静かに頷く。
「わかった。今後は亜人族領と手を取り合おう。
良き隣人として……よろしく頼む。」
俺は笑顔を浮かべる。
「はい、ありがとうございます!」
ステュクス様が続ける。
「それだけか? 他に望むものはないか?
メティスを娶る気はないか?」
俺は全力で首を振る。
「いえいえ、そんな恐れ多い。」
「そんな事言わずに、貰ってください!」
……ん?
メティス様の声?
次の瞬間、ステュクス様が俺を抱き寄せ──
軽く触れるようなキスをしてきた。
驚いて目を見開くと、
その姿はいつの間にか変わっていた。
ミスリルのように明るく輝く銀白色の長髪。
凛として美しい、絶世の美女。
「黙って……騙していてごめんなさい。
ゴーレムは性別を自由に変えられるんです。
でもリンドウ様が悪いんですよ。
“メティス様にお役に立てることがないか考える”とか、
兄であるステュクス様の御身を心から案じておられました、とか。
そんな事言われて……しかもゴーレム領の問題まで解決してくれて……
好きにならないわけがないですよね!」
そう言って、もう一度そっと触れるようにキスをされた。
えっ……ええええええええ!!
それじゃあステュクス様とメティス様は同一人物だった?!
確かに……二人を同時に見た事がなかった。
あ……メティス様、すごく良い匂いが──
じゃなくて!
引き離さないと……って、さすが魔王様。
この力、怪力じゃないと離れられない。
まずい……非常にまずい……!
俺はしどろもどろになって説明する。
「あのですね。お気持ちは大変嬉しいのですが……
私には心に決めた方がいまして。」
ステュクス様──いや、メティス様が即答する。
「第二夫人でも構いません!」
いやそれは……その……。
俺はガオト様にどう説明しようか、
メティス様にどうやって諦めてもらうか、
ゴーレム領の問題解決のように
良いアイデアが浮かばないかと、
必死で目の前の問題解決の方法を考えていた。




