28話 お人好しと誘拐
俺はガオト様に一部始終を報告した。
「よくわかった。待っていろ。
五百年先と言わず、今すぐ滅ぼしてやる。」
俺は慌てて説得する。
「待ってくれ! 必ず戻るから。
少しの間、我慢してくれ!」
ガオト様が激昂する。
「自分の番を田畑と同じように扱われて我慢できるものか。
私とタケオミなら、ゴーレム領など鎧袖一触であろうよ!
ドワーフとて、頼るゴーレムが滅べば移住してくるだろう。」
俺は思わず叫ぶ。
「ガオト! 止めてくれ。
君の口からそんな言葉を聞きたくない。」
己の身を削ってまで民を愛する誇り高き施政者。
他の領の民であっても、その苦しみを理解できる高潔な精神。
それが──俺の愛するガオト様だ。
ガオト様が少し冷静になる。
「……すまん。今のは言い過ぎた。
だが、それではタケオミがいつまで経っても戻ってこれないだろう?
解決の目処は立っているのか。」
俺は少しの間、沈黙する。
「今のところは……。
でも、まだ問題を知ったばかりで、
ゆっくり考える時間があったわけでもないから……。
でも必ず──全員が幸せになる良い方法を探してみせるから。
信じて……待っていてくれ。」
「……わかった、タケオミ。
だが一つだけ言っておく。」
「うん、ありがとう。
それで……何だろう?」
ガオト様から声だけで、冷気が漂っているのが伝わる。
「戻ってくるときに女を連れていたら……わかっているだろうな。」
俺は全力で否定する。
「絶対! そんな事はないから!」
そう言って、通話を切った。
ヘレンさんから“相手してやる”と言われたのは……
ノーカンでいいですよね、と独りごちた。
「はぁ……解決策か。
何かいいアイデアないかな……。」
前の世界の方が詳しい人がいるかもしれない。
そんな軽い気持ちで、辞めた会社にいた瀬田さんのことを思い浮かべたら──
万能魔術の携帯電話で繋がってしまった。
「はい、もしもし……。
知らない番号ですけど、どなたですか?」
「あ、もしもし……林同です。」
瀬田さんの声が大きくなる。
どうやら本当に携帯電話に繋がっているようだ。
「えっ? 林同主任?
何で私の番号を……それもあるけど、
急に会社辞めてびっくりしましたよ!
一体どうなってるんですか!」
どうしたものか……。
頭がおかしくなったと思われるだろうが、
俺はすべてを正直に話した。
瀬田さんが小さな声で呟く。
「……いいなぁ。」
「えっ?」
「いえ、異世界なんて小説やアニメみたいで羨ましくて。
私も連れて行って欲しいな……なんて。」
「信じてくれるのかい?」
「だって、林同主任ですしね。
異世界に行った理由なんて納得しかないっていうか。
それに、ご自身じゃ気付いていないかもしれませんけど、
電話から聞こえる声が大分高くなっていますよ?
若返ったって話にも信ぴょう性があります。」
瀬田さんの声から、躊躇う気配が伝わってくる。
「私も……連れて行ってもらえたり……無理ですよね?」
「ごめん……。」
「そうですよね。私が行っても、お邪魔になって……。」
「いや、瀬田さんが来てくれるなら心強いけど、
誰かを連れてくる方法がわからないんだ。
仮にその方法が見つかった時は、また連絡するよ。」
「わかりました。楽しみに待っていますね。
あ……それで鉱石ですけど、
海の底から持ってくるとか無理でしょうか?」
「なるほど……海の底か……。」
「いえ、思いつきで言ってしまってごめんなさい。」
「いや、助かった。ありがとう。
それじゃ今日は切るね。また連絡するよ。」
「はい。林同主任の声が久しぶりに聞けて嬉しかったです。
異世界でも変わらずお人好しやってるんだなって、笑っちゃいましたけど。」
「ははは……それじゃあね。」
俺はその後、
退職した後輩の佐藤と、左遷された山田課長に電話を繋げた。
瀬田さんから様子を聞いて、気になったのだ。
佐藤からは泣きながら、
「先輩のありがたさ、優しさに助けられていたことが
いなくなってから気付きました」と感謝され、
山田課長からは一言、
「済まなかった。俺は良い上司ではなかった」と謝られた。
佐藤に“ゲームの話なんだけど……”という感じで聞いてみたら、
「そうっすね、それだけ色々な世界があるなら、
未開の地とか誰も住んでいない世界、ありそうなもんですけど」
というヒントらしきものが貰えた。
俺は頭の中で、点と点が繋がりそうで繋がらない……
そんな感覚になっていた。
パズルのピースが足りない──そんな感じだった。
ベッドの上で頭を悩ましていると、
目の前に突然、霧が現れ、
やがて人の形をなしていく。
「一体、何が……」
「初めまして、リンドウ様。
私は吸血鬼のストリクスと申します。」
彼がそう挨拶したと思った瞬間、
俺の視界は黒く染まり──暗転した。




