27話 お人好しとカタルシス効果
俺はメティス様に問いかけた。
「何故、魔王様の妹君を投獄などと……?」
少しの沈黙の後、メティス様が語り出した。
「兄が強硬派に……吸血鬼の使者に傾きかけていたので、
それを説得していました。
それを強硬派の重臣達に聞かれてしまい、
場を治めるために、私が自ら志願しました。」
俺は思わず声量が上がる。
「それでは魔王様──ステュクス様は強硬派に踏み切ったのですか!」
「いえ、まだ決めたわけではありません。
兄は……苦しんでいるのです。
自分と同じ種族のゴーレムの命を背負う重みに……。
減らすことも……増やすことも……決めあぐねて、
毎日、頭を抱え、解決策を模索して……
それでも見つからなくて。」
自分の決定が“種の命脈”を握る。
その心労は想像に及ばないだろう。
俺はメティス様を元気づける。
「お辛い立場だと思います……。
ですが、安易な方向に進むことのないステュクス様を、
私も心から応援したくなりました。
微々たる力ではございますが、
万分の一でもお役に立てることがないか考えてみます。」
メティス様の声が少し明るくなる。
「リンドウ様……ありがとうございます。
どうか……どうか兄をよろしくお願い致します。」
その時、足音が聞こえた。
続いて、メティス様の牢の扉が開く音。
そして、驚嘆の声。
「あぁ……!」
俺は思わず声を荒げる。
「メティス様?!」
バス・カンタンテのような重厚な声が響く。
「心配するな。会話の邪魔になるから
部屋に連れて行っただけだ。
強硬派も落ち着かせたのでな。」
そう言って目の前に現れたのは、
ミスリルのように明るく輝く銀白色の長髪をなびかせた、
神話に出てくるような美青年だった。
「初めましてだな、リンドウ。
余がゴーレムの魔王──ステュクスである。
そなたに頼みがあって来てもらった。
……精々、役に立ってもらおうか。」
俺はその美しさと重厚な声に、
ある種の神々しさを感じ、自然と頭を下げていた。
「よい、面を上げよ。
さて、余は回りくどい事は嫌いでな。
本題に入るとしよう。」
俺は跪いたまま、顔だけを見上げ、喉を鳴らした。
「ヘレンから、そなたが“無から有を産みだす魔術”が
使えると聞いている。それは誠であるか?
また、それは一日にどの程度の量が可能だ?」
なるほど……砥石を出した時の話か。
それで報告がいったのだろう。
俺を──食料の製造工場に使うつもりか。
「質問にお答えいたします……。
魔力を使用して無から有を産みだす事は可能です。
量については……正確にはわかりませんが、
少なく見積もってゴーレム全員の
一日当たりの食事量を賄えるでしょう。」
ステュクス様が愉快そうに微笑む。
「そなた……馬鹿なのか?
余がどのような意図で聞いているのか、
わからぬでもあるまい。
正直にそう答えたら、待つ結果も分かっていよう?」
俺は心の中でガオト様に謝罪する。
「メティス様に“お役に立てることがないか考える”と
お約束しましたから。
勿論、他に良い方法がないかは考え続けます。」
ステュクス様の顔から感情の色が消える。
「そうか。わかった。
ではそなたに明日からゴーレムの食糧担当を任命する。
無碍に扱う事もしないと約束する。
ゴーレムにとって何より大事な宝になるのだからな。
好きに振舞う事を許す。
希望するならメティスも娶らせてやる。」
俺は首を振る。
「いえ、そのような待遇は不要でございます。
それにメティス様をそのように扱うのも望みません。
兄であるステュクス様の御身を、心から案じておられました。
その思いやりを……どうか労ってくださいませ。」
「……お人好しか。」
ステュクス様は短くそう言うと、話を切り上げた。
「わかった。話は終わったのだ。
牢から出してやる。
階段を上った先にいる従者に部屋まで案内してもらえ。」
そう言ってステュクス様はこの場をあとにした。
しばらくして階段を上ると、そこにはヘレンさんがいた。
「人前で無闇やたらに手の内を明かしてはいけないと……
勉強になりました。」
ヘレンさんが気まずそうな、悪そうな顔をする。
「皮肉かい? すまなかったね。
謝って済む話じゃないのはわかってる。」
俺は首を振る。
「いいえ、本心です。
それに、もし私があなたの立場でも……
きっと同じことをしたでしょう。
種の存亡と一人の命、天秤にかけるまでもない。」
ヘレンさんがふっと笑う。
「お人好しだね……。
とはいえ、しばらくは強硬派も落ち着くだろうけど……
所詮、リンドウが死ぬまでの時間稼ぎにしか過ぎない。」
あぁ、そうか。
俺が“不老不死”ってことは知らないんだな。
これは……流石に黙っておこう。
俺を部屋に案内すると、ヘレンさんは立ち去った。
さて……ガオト様に連絡を入れないと……。
どう説明しようか。
俺の心は、一トンのリュックよりも重くなっていた。




