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26話 お人好しと勧誘

俺は両手をお手上げといった感じでハの字にする。


「突然のデートのお誘いありがたいですが……

 私に、着いていく理由がありますか?」


ヘレンさんが不敵に微笑む。


「あんたが断ったら、自治区のドワーフ達が死ぬことになる。」


レティアさんが怒気をはらむ。


「ヘレン……あなた……!」


俺はレティアさんを制止する。


「先ほど、私の勧誘を断ったドワーフが

 人質になるとでも?」


「“あんたがそこのドワーフの仲間を見殺しにできる”って言うなら、

 このまま立ち去ればいいよ。」


ドゾムさんが俺の顔を見上げる。


「リンドウ……。」


見透かされているか……。

どのみち、事情を聞いた時点で

見殺しなどという選択肢はないのだが。


「わかりました。一つだけ条件があります。

 レティアさんとドゾムさんも同行させてください。」


「良いだろう。着いてきな。

 レティア……大丈夫かい?」


その声には、確かな優しさがあった。

だとすれば、ヘレンさんは穏健派なのだろうか。


「えぇ……ありがとう。

 でも、ドワーフを人質に取ったあなたと

 今は口をききたくないわ。」


「その事について弁解するつもりはないよ。」


俺は目隠しをされ、何かに乗せられた。

恐らく大きな駕籠かごだろう。

揺られながら運ばれていく。

どれほどの時間が経っただろうか。


「着いたよ。」


そう言われて目隠しを取ると、

そこは地下牢のようだった。

とはいえ、牢の中は部屋として綺麗に整えられている。


「ドゾムさんとレティアさんは?」


「別室に控えさせてある。

 安心しな、手荒な真似はしていない。

 私とレティアは友人だからね。」


ヘレンさんが目を伏せる。


「話があるのはあんたにだけさ。

 この牢は魔力を遮断してある。

 ここじゃ魔術師は無力だ。

 無駄な抵抗はやめておくんだね。」


俺は万能魔術で何か適当な物を出してみようとしたが、

何も起こらなかった。


「本当……みたいですね。」


「わかっただろう?

 話があるまでベッドで休んでな。」


ヘレンさんが俺の胸倉を掴み、微笑む。


「それとも、相手してやろうか?

 あんたを“もてなせ”と言われているからね……?」


俺は激しく首を振る。


「いえ、結構です! 勘弁してください!」


ヘレンさんが手を離す。


「ふん、冗談だよ。

 でも流石にその反応は傷つくね。」


俺は頭の中で、ガオト様に噛み殺される自分を想像して青ざめる。


「いえ! ヘレンさんは魅力的ですよ?!

 でも、違うんですよ。」


ヘレンさんが呆れた顔をする。


「わかった、わかった。

 もういいよ。

 慰めるのが下手すぎる。」


そう言うと、ヘレンさんは去っていった。


俺は一人になり、仕方なくベッドに横になった。

目を瞑っていると、気が付けば眠っていた。


「あぁ……よく寝た。

 どれくらい時間が経っただろうか。」


ガチャッ、と隣の牢に誰かが入れられた音がする。

しばらくすると、シクシクと──

オペラで聞いたリリック・ソプラノのような透明な声で、

女性の泣き声が聞こえてきた。


俺は思わず声をかける。


「大丈夫ですか。」


泣き声が止まる。


「はい……ありがとうございます。

 うるさくしてごめんなさい。

 あなたはリンドウ様ですね?」


俺に少しの緊張が走る。


「私のことをご存知なのですか?

 あなたは……?」


「私は、あなたを牢屋に入れることを命じた

 兄──魔王ステュクスの妹、メティスと申します。」


思わぬ場所で、思わぬ人物と会話することになった。

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