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25話 お人好しと政争

レティアさんが意を決して言葉を発した。


「ゴーレム領は今、穏健派と強硬派に分かれているのです。」


ドゾムさんが首を傾げる。


「穏健派? 強硬派? 何じゃそれは……。」


レティアさんが視線を落とす。


「穏健派は、緩やかにゴーレムの個体数を減らし、

 やがて滅びを迎えることを良しとした派閥です。

 強硬派は……滅びを良しとせず、

 魔界の他の地域だけでなく、人界や天界まで

 ゴーレム達で支配することを是とした派閥です。」


俺は問いかける。


「それでは、レティアさんを襲ったのは……強硬派、ですか。」


「はい……私の甥です。

 強硬派の刺客をしています。」


ドゾムさんが肩を震わせる。


「お前さんの甥といえば……マルカか。

 あんなに懐いておったのに……。」


俺は質問を続ける。


「それで、そもそも何故そのような派閥に分かれたのですか?」


「私たちゴーレムの食料は、鉱物……と言えばわかりますか?」


あぁ……合点がいった。

俺は額を手で押さえる。ここでも食糧問題か。


「試算でもしましたか……?」


レティアさんが目を丸くする。


「驚きました。リンドウ様は賢者ですのね。

 そうです……ゴーレム領だけでは、もって五百年。

 私たちが出した計算ではありませんけど……。」


ドゾムさんが要領を得ない表情をする。


「何じゃ? 何の話じゃ!

 リンドウ、儂にわかるように説明せんか!」


「ドゾムさん……鉱石は採掘して採りますね?

 そして採り終わったら次の鉱山を掘る。

 何故なら、鉱石は植物と違って時間を置いても生えてこないから。」


「何を当たり前のことを言っておる。」


「そうです。当たり前のことなんです。

 では──採りつくしてしまったら……?」


ドゾムさんが目を見開く。


「あ……!」


「私は穏健派です。

 美しい世界を食い尽くし、他種族を踏みにじらなければ

 生きられぬゴーレムは……静かに滅びるべきなんです……。」


ドゾムさんが叫んだ。


「そんなことはない、レティア!

 お前さんは優しいではないか!

 甘んじて滅びを受け入れる必要などないじゃろうが!」


レティアさんがドゾムさんの手を握る。


「ありがとう、私の異種族の友、ドゾム。

 だからこそ……滅ぶ必要があるのよ。」


俺は何とかできないか考えてみる。

しかし、すぐに解決策が浮かびそうにはなかった。

先に気になったことをレティアさんに確認する。


「ところで、“私たちが出した計算ではない”と仰いましたが……

 それでは一体、誰が……?」


レティアさんが嫌悪を浮かべた表情で告げた。


「吸血鬼領からの使者でした……。

 “私たちは支配した人間を食料に、

 ゴーレムは支配した地域の鉱物を食料に。

 お互い手を結び、Win-Winの関係を築こうではないか”と。」


「なるほど……支配という観点からでは理には叶っていますね。

 お互いに欲しいものが競合していませんから。」


レティアさんが非難の声を上げる。


「リンドウ様……!」


俺は慌てて手を振る。


「いえ、誤解しないでください!

 決してその企みや行動を肯定しているわけではありません。

 ただ、理屈としては理解できるというだけです。

 ところで、この話はゴーレム領の全員が知っているのですか?」


「今はまだ、魔王であるステュクス様に近しい者のみ……です。

 それでも徐々に増えて、派閥ができあがってしまいましたが。」


「ちなみに……ステュクス様はどちらの派閥なのでしょう?」


レティアさんが静かに告げた。


「今はまだ……中立とお伺いしています。

 静観していると。」


なるほど……。

まだ“攻め取る”以外の方法を模索してくれているのだろうか。

もしそうであれば、ありがたい。


一通り、状況や事情を聞き終わったが……

場は沈黙に支配されていた。


だが突然、その静寂を破る音が玄関から聞こえた。


もしやレティアさんの甥──マルカが戻ってきたのだろうか。

そう思って玄関に視線を向けると、

そこに立っていたのはギリシャ彫刻ではなく、

人間にしか見えないヘレンさんだった。


「リンドウ、あんたに着いてきてもらう。」


一波乱ありそうなデートのお誘いだった。

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