22話 お人好しと魔力操作
振り返ると、一人のドワーフが腕を組んでいた。
そして、重々しく口を開く。
「さっきの話について、詳しく聞かせい。
……ここじゃ人目がある。儂の工房についてこい。」
無言で頷き、彼のあとをついていくと、
自治区の少し外れにある立派な工房に案内された。
「……入れ。茶くらいは出してやる。」
誘導された椅子に座ると、
穀物を炒った殻で淹れたと思われる、
熱い香ばしいお茶を出してくれた。
「さて、まずは自己紹介じゃな。
儂の名前はドゾム。お前さんはリンドウだったか。
それで、何で亜人族領で鍛冶を興そうと思ったんじゃ?」
俺は、自分が違う世界から来たという部分はぼかしつつ、
亜人族の村で衣食住の改善に目処が立ったこと、
次に産業の発展を目指して冶金・鍛冶に着手したいこと、
そのため知識と経験が豊富なドワーフを勧誘に来たことを告げた。
俺はドゾムさんに問いかける。
「工房に並んでいる武器や防具を見たところ、
ドゾムさんは相当に腕の立つ鍛冶職人だと思いますが……
いかがでしょうか?」
ドゾムさんは腕を組み、天井を見上げる。
うーむ……ふーむ……と呟きながら思考を巡らせている。
「何から話したもんか……まあよい。
儂がお前さん──リンドウを呼び止めた理由じゃが……
すまんが話にまとまりがつきそうにない。」
俺は口角を上げ、掌を上に向ける。
「どうぞ、どうぞ。今の私にはどんな話でも
ありがたい知見となります。
お好きな順序で話してください。」
「うむ……助かる。
お主は魔石、魔鉄……要するに“魔鉱”と呼ばれる物の存在は知っておるな?」
「えっと、ゴーレム族の身体がそれらに当たるとお聞きしました。」
「そうじゃな。それは間違いではないが、別にそれだけが魔鉱の作り方ではない。」
そう言って、ドゾムさんが針金を目の前に置く。
「これに魔力を通してみろ。」
俺は針金を手に取り……魔力を流──
「すみません、魔力を流すってどうやるんですか……?」
ドゾムさんがお茶を噴き出す。
「なんじゃ? お前さん、凄い力を感じるのに
魔力操作が出来んとはどういうことじゃ?!
魔力を扱う者の基本中の基本じゃぞ!」
神様のカタログポイントで万能魔術を覚えたが、
どうやら基礎を飛ばして応用だけ覚えた状態らしい。
カタログギフトを確認すると、
“魔力操作・10,000ポイント”が見つかったので、急いで取得する。
「久しぶりで忘れていました。
試してみます。失敗したらすみません。」
針金に魔力を流し込むイメージをする。
すると──針金が淡く光った。
「できました!」
「うむ、それでよい。それでその針金は、魔鉄になったわけじゃ。」
「あれ? こんなに簡単に出来るなら、
ゴーレム族に頼る必要もないのでは?」
ドゾムさんが、予想通りとばかりに笑い、
鉄のインゴットをゴトリと目の前に放り投げた。
「今度はそれに魔力を通してみろ。」
インゴットに魔力を流し込むイメージをする。
……できないことはないが、反発というか抵抗がある。
そこで、一気に流し込んでみる。
よし……染ま──と思った瞬間、
インゴットがひび割れてしまった。
「まさか、一気に流し込むことができるとは……
お前さん、相当な魔力の持ち主じゃな。
まぁ、そういうわけじゃ。
鉱石の塊が大きくなるほど、魔力を流し込むのが難しくなる。
かといって一気に流し込むと、抵抗と反発で劣化する。」
ドゾムさんが首を振る。
「かといって、針金くらいの大きさで魔鉱化したものを
溶かしてまとめると、魔力が揮発してやはり劣化する。
現状、ある程度の大きさの魔鉱を手に入れようと思ったら、
ゴーレム族の体内で生成してもらうしかないんじゃ。」
俺は魔鉱の性質について推測を立てる。
なるほど。
恐らく面積が増えるほど、乗数のように抵抗が増えていくのだろう。
抵抗が大きい鉱物を一気に染め上げると、
熱した陶器に突然冷水をかけたように
衝撃が大きくなってしまう。
だから、抵抗が多いほど一定の速度で緩やかに
魔力で染め上げる必要があり。
それをゴーレムは、自分たちの身体で行うことができる。
ドゾムさんが、自嘲したように告げる。
「協力関係……と言えば聞こえはいいがの。
己の力だけで最も重要な素材を精錬できぬ鍛冶師が
“至高の一振り”などと……笑わせるなと、儂は思っておった。」
俺は慎重に言葉を選ぶ。
「つまり、ドゾムさんはゴーレム族に頼らない
魔鉱の作り方──もしくは、それ以上の素材を
追い求めているのでしょうか?」
ドゾムさんがゆっくりと頷く。
「そうじゃな。夢物語かもしれんが……
だが、探しもせずに諦めたくはないんじゃ。」
俺は思わず賞賛の言葉を贈る。
「ドゾムさん、あなたは素晴らしい挑戦者です。」
ドゾムさんが照れたように頭を掻く。
「まだ何もしとらんわい。……さて、話を続けるぞ。」
俺はドゾムさんに続きを促した。




