20話 お人好しとゴーレムの洗礼
ヘレンさんが、大きくて平らな石板を持ってきた。
ホワイトボードのような形をしている。
それに書き込みながら説明を始めてくれた。
「大前提だが、あんたも見た石壁の中は、
金属や鉱石の身体──一般的に“金属生命”と呼ばれる
私たちゴーレムが支配している地域だ。」
俺は無言で頷く。
「ゴーレムの中に“一族”はない。
あるのは“等級”。あんたに分かるように言えば、主成分の違いだ。
ストーンゴーレム、カッパーゴーレム、アイアンゴーレム……と続いて、
最上位がミスリルになる。
私たちの偉大な魔王様もミスリルだね。」
俺は質問する。
「ストーンゴーレム……ヘレンさんがアイアンゴーレムになることは
できないのですか?」
「できるできないで言えば、できるね。
食事に鉄鉱石を増やし、取り込む成分を調整して、
体内の魔力を練っていけば、やがて変質する。」
俺は思わず聞き返す。
「食事……?」
するとヘレンさんが突然、
自分の右腕を切り落とした。
ゴトッ!!
大きな音を立てて、切り離された右腕が目の前に落ちる。
「えっ?!」
驚いている俺の前で、
足元にあったピンポン玉ほどの石の欠片を左手で大量につかみ、
口をがばっと開いて咀嚼を始めた。
「……せんべいみたいに石を食べてる……」
ヘレンさんが食べ終わる頃には、右腕が生えていた。
「これがゴーレムの食事さ。鉱山なんかで取れる、
自分好みの鉱石を摂取するんだ。
私は石が好きでね。鉄みたいな高級品は口に合わないのさ。」
食事の好みのように言われた。
実際、そうなのだろう。
ヘレンさんが、切り落とした右腕を俺に渡してくる。
「ゴーレムの身体は、本来の鉱石と違って魔力を帯びている。
それもただの石じゃない、“魔石”になっている。
それで作った剣は、ただの鉄の剣より
よっぽど切れ味抜群で頑丈なものができるよ。」
なるほど。
だとすれば──魔石、魔銅、魔鉄、魔ミスリル……そんな感じになるのか。
同じ魔石でも、ゴーレム自身の強さによって強弱がありそうだ。
そこで、俺はふと気付いた疑問を口にする。
「ひょっとして、ドワーフたちがゴーレム領に住んでるのって……」
ヘレンさんが軽快に笑う。
「その通り。私たちの身体が目当てなのさ。」
俺は思わず苦笑する。
「その言い方は……文字通りなんでしょうが……」
俺は考える。
でも、それだけならドワーフたちに利益はあっても、ゴーレムに利益がない。
「ひょっとして、ドワーフとゴーレムは協力関係になってたりします?」
「鋭いね。」
ヘレンさんがホワイトボードに関係図を書いてくれた。
──ドワーフは鉱山を開く。
危険な場所をゴーレムが掘り進める。
取れた鉱石をドワーフに渡すと、
ドワーフが冶金で製錬・精製を行い、不純物を取り除いた
純度の高い金属を取り出し、それをゴーレムに納品する。
ゴーレムは“美味しくなった金属”を食べる代わりに、
定期的に身体の一部をドワーフに提供する。
ドワーフ達はその素材で鍛冶をする。
「なるほど、凄い関係ですね。
あれ? でもドワーフ達の食事はどうしてるんです?
まさかゴーレムみたいに鉱石は食べれませんよね?」
ヘレンさんが笑う。
「ドワーフ達で集まる自治区を作って、
そこで田畑を耕しているようだよ。
魔界は作物が育ちにくいから、苦労はしているみたいだけどね。」
なるほど。
恐らく耕作する面積──量でカバーしているのだろう。
多分、ゴーレムも労働力として手伝っていそうだ。
「よくわかりました。本当にありがとうございます。
それでは、そのドワーフ自治区に向かってみます。」
砥石!
俺は万能魔術で、いくつもの最高級の天然砥石を作り出す。
「お口に合うかわかりませんが、これをどうぞ。」
ヘレンさんが嬉しそうな声を出す。
「おや、いいのかい? ありがとうよ。
さて、入城検査と説明はこれで終わりだ。
おっと、名前を聞いてなかったね。」
「リンドウです。」
「ようこそ、リンドウ。
我々金属生命が治めるゴーレム領に。」
ゲートを通してもらい、振り返って再度頭を下げる。
──さて。向かうはドワーフ自治区だ。
俺は教えてもらった方角へ歩き始めた。




