17話 お人好しと国家理念(後)
俺はこの世界の現状を、ガオト様に確認する。
「ガオト様、私の予想ですが……
魔界の軍事力は“魔王”が担っているのではありませんか?
その拮抗によって不可侵が成り立っている。」
ガオト様が首肯する。
「その通りだ。」
俺は仮定の話で質問する。
「もし私が来る前に、吸血鬼の魔王や人界の国家が
ガオト様の地域を侵略しようとしたら……どうなりますか?」
ガオト様が顎に指を当てる。
「そうだな。もし吸血鬼のあいつが攻めてきたら、
刺し違えるか、一方は生き残っても深刻なダメージを受ける。
その間に他の魔王や人界に侵略されるだろう。
人界が攻めてきたら……私が死に物狂いで
人界の国家をいくつか滅ぼして倒れる代わりにはなるが……
亜人族は人間に支配されるだろうな。」
大方、予想していた通りの答えだった。
「つまり、双方の被害が大きいから均衡が保たれている。
ですが、もし……どこかの勢力が“打ち破るほどの軍事力”を
手に入れた場合……」
「侵攻が始まるのだろうな。」
俺はさらに踏み込む。
「そして、過去……
双方に大きい被害が出て、爪痕を残すほどの“大戦”があった……んですね。
恐らくそれで紅狼族は……」
ガオト様が大きく瞬きをする。
「そうだ……察しがいいな。」
俺は呆れた顔をする。
「どこの世界も、人類の愚かさは同じという事です。」
「なるほど。タケオミの世界でも……か。
納得がいった。」
ガオト様が俺の目を見つめる。
「それで……現状を確認して、その上で展望は決まったか?」
俺はポタージュスープの最後の一口を飲み干した。
「そうですね……結論としては、
亜人族は先ほど言った“国家形成”の流れを辿り、
魔王──ガオト様だけに頼らない軍事力を保持する必要があります。
ですが私は、魔界の各地域や、人界、天界で善い事をしながら、
協力関係を築く道がないか……模索する努力をしたいと思います。
それが叶わないときは──
ガオト様と私と、亜人族の国が、
“他勢力の理不尽を許さない国”を目指しましょう。」
俺は続ける。
「そのためには……吸血鬼の地域などで食料になっている人間や、
人界で奴隷として扱われている亜人族を、
解放しなければいけませんね。」
ガオト様が笑い出す。
「本当にお人好しだ。
それだけの力があれば、好きな世界で好きなように生きられる。
それをわざわざ、背負わなくてもいい荷物を背負い、
茨の道を行くとはな。」
俺は食後のお茶をすする。
「私がそんな人間なら、この世界に来られませんでした。
そして……ガオト様に出会えることもなかった。
だから、選ぶ道が茨でも……きっと後悔しません。」
ガオト様が目を見開く。
「お前は一体、何度私を口説くつもりだ。
朴念仁だと思っていたが……
意外と前の世界でも知らずに口説いていたのではないか?
好意に気付いてなかっただけとか、な。」
俺は狼狽えて、両手を前に出す。
「いや、口説くとか……本心を言っただけで!
私に好意を抱いていた人なんていませんから!」
◇
朝食を終え、衣服工房の皆と合流……したのだが、
何だか様子がおかしかった。
ミアは何か聞きたそうにそわそわしていて、
ユーリは頬を赤らめている。
レイネは満足そうに頷いているし、
ガルガは何故か涙を流していた。
俺は意を決して皆に確認する。
「あの……何かあったんですか?」
ミアが口を開いた。
「リンドウ、凄いにゃ。
本当に凄いにゃ。
じいちゃんもばあちゃんも、
“こんな事、生きてて初めてだ”って驚いてたにゃ!」
その勢いにたじろいで後ろに下がる。
「えっと、何の話……?」
「何って、思念伝達で──
ガオト様から“リンドウと番になった”って
亜人族の全員に連絡があったにゃ。
あんなに声が弾んだ思念伝達は初めてにゃ!」
俺は思わず噴き出し、顔が紅潮する。
ガオト様、思念伝達で報告してたのか。
「ええっ? えええええ?!」
ユーリが言いづらそうに呟く。
「つ、番になったって……そういうことよね?」
レイネが感無量だと言わんばかりに胸に手を当てる。
「我々の偉大な魔王であるガオト様に、ようやく春が来たのだ。」
ガルガが泣きながら俺の肩を叩く。
「リンドウ、頼んだぞ。ガオト様をよろしく頼む。
あの方はずっと我々亜人族を支えてくれているお方だ。
絶対に幸せにしてくれ。」
俺は「頑張ります」とか「ありがとう」とか、
しどろもどろに返すしかなかった。
その日は結局、皆が浮ついてしまい、
衣服工房の作業はほとんど進まなかった。
──明日から頑張ろう。
そう気持ちを切り替えた。




