14話 お人好しと衣服工房
俺は全員に話しかける。
「まずは、材料となる“糸”についてなんですが……。
皆さん、これに似た植物を見たことがありませんか?」
元の世界にあった麻と綿を、万能魔術で写真にして見せる。
ユーリが反応を示した。
「あら、それなら人界で畑になっているのを見たことがあるわね。
なるほど、人間はそれで服を作っていたのね。
魔界の森にも、野生種がいくつかあったんじゃないかしら。」
「それです、ユーリ!
すみませんが、その野生種を森から持ってきてもらえないでしょうか。
人界同様に畑にして栽培しましょう。」
なお、混乱しそうなので
この世界でも、綿と麻と呼ぶことにした。
続けて確認する。
「こういう生き物は見たことないですか?
繭を作る虫です。」
カイコやクワコ、ヤママユの写真を見せる。
レイネが目を細めた。
「これも似たようなのなら森にいたと思うが……。
この繭が糸になるのか?」
俺は思わず前のめりになる。
「そうなんですよ! ぜひこれも繁殖させましょう。
気の遠くなるほど時間はかかりますが、
大人しくて良い糸を出す個体を選別していけば、
高品質な糸がとれるようになっていくと思います。」
レイネが首を傾げる。
「私たち蜘蛛人族の糸では駄目なのか?」
俺は懸念を確認する。
「レイネ達の出す糸は……水に濡れたら縮んだりしませんか?」
レイネが残念そうに答える。
「なるほど。確かに縮んだと思う。
そうか、衣服としては向いていないな。」
「あと、蜘蛛人族の方々が一日にどれくらい糸を精製できるのか
わかりませんが……人に頼ってしまうと、産業として考えた場合、
安定した供給を保つのが厳しいかもしれません。
ですが──」
俺は励ますように続ける。
「水に濡れると縮むということを説明した上で、
“貴重な高級品”として扱うなら問題ないと思います。」
レイネは納得したのか、口元を綻ばせた。
「最後に……少し言いづらいのですが。」
ガルガが首を傾げる。
「何故、俺の方を見る?」
俺は遠慮しがちに確認する。
「体毛のある動物の毛などが向いているんですが……。
すみません、猫と猫人族とか、羊と羊人族の皆さんって、
違いというか……忌避感というか……どういう感覚でしょうか?」
──その瞬間、場が凍りついた。
全員が沈黙する。
「うっわー……ないにゃ。本当にありえないにゃ。」
「最低……見損なったわ、リンドウ……。」
「見ればわかるだろう……。」
「まさか羊と一緒にされるとは……。」
俺は深く頭を下げる。
「……あの、すみません。失言だったようですね……?」
ミアがそっと俺の肩に手を置いた。
「いや、まぁ……知らなかったと思うから今回は水に流すにゃ。
でも今リンドウが言ったことは、亜人族を
馬鹿にする時に一番よく使われる侮蔑発言だから、気を付けた方がいいにゃ。
ちなみに大体の種族──例えば羊人族は、
羊に対して特別な思い入れはないのが一般的にゃ。
ただまぁ……あんまり食べたいとは思わないにゃ。」
なるほど。
人類が「猿と同じだよね?」と言われるようなものか。
元の世界でも、食べる文化がないとは言わないが……
確かに、あまり好んで食べたいとは思わない。
俺は再び、深く腰を折った
「大変、失礼いたしました。
ご不快な思いをさせてしまい申し訳ありません。」
ユーリが笑う。
「冗談よ。皆そんなに怒ってないわ。
何なら亜人族同士でも、たまに言いあったりするわね。」
「そうだにゃ。ユーリは鳥と一緒にゃ。」
その瞬間、ユーリがミアを掴んで空へ舞い上がった。
「にゃああああああ! 冗談にゃああああ!」
俺はついおかしくなった。
「あははは……仲が良いですね。」
ガルガがやれやれと肩をすくめ、掌を上に向ける。
「あいつらは幼馴染だからな。いつも騒がしい。
それで──糸の目処は立ったが、その後はどうなる?」
俺は万能魔術で次の工程に必要な道具を出す。
「紡績機!
飛び杼!」
空から戻ってきた二人を見計らい、説明を続ける。
「ゆくゆくは、これらも村で製造することが目標です。
糸の素材が集まったら、まず紡績機で糸を紡ぎます。
最後に飛び杼で布を織り、服を作ることが出来れば──
試作品の完成です。
まずは工程を把握するため、
“4人の一着”を目標にしましょう。」
全員が右手を前に出し、重ねるようにして掛け声を上げた。
この瞬間が──
亜人族が生産する衣服工房の、最初の一歩となった。




