第六幕 第一場 ハジュン(六)
今回少し短いです。
浄化が終わった偽聖女は、ジュリアと名乗った。
「ただのジュリアと、そうお呼びください」
熱のこもった目で見つめられ、ユディはちょっと狼狽える。
すかさず助けてくれたのは、エドガーだ。
「じゃ、そういうことで。キチンと約束を守れよ。サウル、ローレンス、後は任せた」
ユディの腰を抱き寄せると、返事も聞かずに偽聖女の邸を後にする。
相変わらず強引だったが、今はそれがありがたかった。
(まあ、だからって腰を抱くのは違うと思うんだが……)
それでも連れだしてもらえたのは嬉しかったので、ユディは黙って我慢する。
それにそこまでいやというわけでもなかった。
(だんだんこの距離感に慣れてきているんだよな)
自分の変化が、良いものか悪いものか?
判断に迷いつつ、家路についたユディだ。
そして、なんとか無事に宿屋に帰ったその翌日。
ユディは宿屋の隣、エドガーの家にいた。
「やっぱり、俺も宿を手伝った方が――――」
「今日は休憩だ。そう決めただろう。宿屋の方は、お前が手塩にかけて育てた子どもたちが、頑張っているんだ。信じて任すのも親の務めだぞ」
そう言うエドガーは、上機嫌でハジュンのオムツを替えている。すっかり慣れた手つきは、これが『勇者』だなんて誰も思わないレベル。
「それはそうなんだが――――」
「諦めろ。……ほら、ミルクを作ってくるから、ハジュンを抱っこしてやってくれ」
ポンとハジュンを渡されれば、受け取る以外なかった。
ユディの腕の中で、ハジュンは機嫌よさそうに笑う。
――――今日、ペーターとアンジェラは、城に行った。
ジュリアとサウル、ローレンスも一緒で、副神殿長に引導を渡してくると張り切っていた。
ユディも一緒に行こうとしたのだが「行かない方がいい」と、全員に言われてしまって諦めた。
(まあ、俺ができることなんて、もうないんだけどな)
なら普通に働こうとしたのだが、そちらはロッドたちに止められてしまう。
「父さんは、昨日大きな力を使ったんだ。今日はゆっくり休んだ方がいいよ」
そんなに疲れていないのだが?
「いや、大丈――――」
「疲れって、知らないうちにたまるものだからね」
「父さんが無理して倒れたら、大変だ」
「俺とアーサー兄さんも、今日は騎士団を休んだから心配しないで任せて!」
ロッド、リック、ティムの順に言葉を遮られ、最後にアーサーがコクリと頷く。
みんな優しい自慢の息子たちだった。
そこまで言われたら断れなくて、結局ユディは今日一日を休息日としたのだ。
とはいえハジュンの面倒はみなければならず、結果アーサーとふたりで彼の家ですごすことになったのだが……。
「みんな過保護なんだよなぁ。そう思うだろうハジュン?」
ハジュンをあやしながら、ユディは呟く。
聞いたとて赤子か答えるはずもないのは、わかった上での行いだ。
――――今ごろ、ペーターは城で自分が王太子だと名乗り出ているところだろうか?
「うまくいくといいんだが……」
話に聞く副神殿長は、往生際が悪そうだった。
おかしな悪あがきをしなければいいのだが。
窓から空を見上げれば、どんよりとした曇が低く垂れ込めていた。
「サウルさんもローレンスさんもいるし……大丈夫だよな?」
そこにエドガーがミルクを持ってきた。
「きちんと人肌に冷ましてきたぞ」
「わかった。俺が飲ますからこっちにくれ」
得意げなエドガーからミルクをもらおうと手を伸ばす。
そこに――――。
「すまない! 聖女さま。緊急事態だ。今すぐ城に来てくれ!」
シュン! と音がして、突如サウルが現れた。
「へ?」
呆けるユディの手をサウルが握る。
「ユディ!」
焦ったエドガーが、ミルクを持ったままユディを抱き締めた。
ユディの腕の中では、ハジュンが「キャッキャッ」と笑っている。
次の瞬間、そこにいた全員が…………跡形もなく消え去った
宣伝です!
10月8日発売!
「元サレ妻のヒロインは、ひとりで竜を倒したい!~浮気者の攻略対象者には頼りません~1」
https://cnovel.bushiroad-works.com/novel/motosaretuma_01/
10月16日コミカライズ配信開始!
「訳ありモブ侍女は退職希望なのに次期大公様に目をつけられてしまいました」
https://www.j-publishing.co.jp/fairykiss/book-37595/
どちらもよろしくお願いいたします。
<(_ _)>




