第六幕 第一場 ハジュン(三)
「まあまあ、いいじゃないかユディ。二号店も三号店もまだまだ先の話なんだ。まずは目先の問題を解決することにしよう」
エドガーにそう言われたユディは、いったん考えることを止める。
「わかった。…………ロッド、アーサー、後でゆっくり話を聞かせてくれ」
ユディに声をかけられて、ロッドは少し緊張した様子で、アーサーは晴れやかな表情で頷いた。
目先の問題とは、当然ペーターを王太子に戻すことだろう。スキルの偽装と深く関わるこの問題は、一筋縄ではいかないはず。
そう思っていたのだが。
「方法はふたつだよね。――――僕が魔法をぶっ放して問答無用で、城を破壊するか、ペーターを先頭に立てて形だけ降伏勧告をしてから、城を破壊するか」
サウルの言葉にユディは眉をひそめた。
(それを、ふたつと数えていいのか?)
最終的に城を破壊するのは変わらない。
あまりに暴力的な方法だと思う。
同じように感じたのだろう、ローレンスが制止の声を上げた。
「それでは、ダメだ! …………当然、私も攻撃に加わるぞ。アニーを虐げた奴らに、報いを受けさせてやる!」
ドンとテーブルを叩く、ローレンス。――――彼が反対したのは、行動ではなく方法の方だった。
「俺は行かないからな。復讐なんかより、ユディの傍にいる方が大切だ」
それもどうかと思う発言をしたエドガーは、さりげなくユディの腰を自分の方に引き寄せる。
エドガーの手をはたき落としながら、ユディは頭を抱えた。
(この三人に任せたらダメだ)
考えて――――。
「エドガー、俺のスキルを奪った女性――――偽聖女は、まだ生きているんだよな?」
ハッと思いつき、顔を上げた
途端、エドガーは表情を険しくする。
「ユディ! まさか、アレに会うつもりなのか?」
「ああ。そもそものはじまりは、彼女が俺のスキルを盗んで偽装したことだろう? それを見抜いた副神殿長が、自分もスキルの偽証を利用しようと思いつき、実行したんだったよな?」
結果、ペーターやアンジェラのスキルは盗まれ、偽物が大手を振って王太子や王太子妃として暮らすようになった。
「あ、ああ。証拠はなにもないけれど、おそらくそれで間違いない」
エドガーの肯定を受けて、ユディは言葉を続けた。
「その偽証を偽聖女にやらせたのか、それとも他の方法を使ったのかわからないってことだったけど……俺は、実行したのは偽聖女だと思うんだ」
「……なぜだ?」
「だって、スキルを盗むというのは『盗賊』のスキルだったんだろう。それを簡単に真似するのは、いくら副神殿長でも難しいんじゃないか? ……それに、今いる偽物の『勇者』と『賢者』と『聖騎士』は、姿形は本物に似ていても、その能力は本物と比ぶべくもないんだろう?」
ユディが確認するようにロッドとアーサー、ティムを見れば、三人とも大きく首を縦に振った。彼らは、偽の『賢者』と『聖騎士』を知っている。
「本物より遙かに劣るとされている『勇者』たちに反し、『王太子』や『王太子妃』にそこまでの悪評は聞こえてこない。…………この違いは、たとえ盗んだものであろうとも、本物のスキルを偽装できているかいないかの差じゃないのか?」
ペーターやアンジェラがスキルを盗まれたとき、偽聖女は元気だった。
一方、勇者一行の偽物が必要となったときは、偽聖女は呪いに蝕まれ苦しんでいたのだ。当然盗賊のスキルを使えるような状況ではなかっただろう。
「ペーターとアンジェラさんのスキルを盗んだのは、偽聖女だ。『盗賊』のスキルで盗んだから、偽物も曲がりなりとも『国王』と『王配』のスキルを使えている。――――俺のスキルを盗んだ『盗賊』が『聖女』のスキルを使えたようにな。…………だったら、彼女に話を聞いて。『国王』と『王配』のスキルを盗んだことの裏付けが取れたなら、ペーターたちが本物だという確かな証拠になるんじゃないか?」
その推測が当たっているかどうかはともかくとして、間違ったことは、言っていないはずだ。
ユディは、そう思う。
なのに――――。
「ダメだ!」
エドガーが、大きな声で反対した。
「エドガー?」
「絶対ダメだ! ユディは優しいからな。呪いを受けて苦しむアノ女を見たら、同情して浄化してやりかねない」
いったいエドガーは、自分をどんな聖人君子だと思っているのだろう?
ユディは思わず苦笑する。
「そんなことはしないぞ。……まあ、取引材料として、真実を証言する代わりに浄化してやるくらいはするかもしれないが」
「やっぱり! ユディは、優しすぎる。苦しむアノ女を見たら、自分のせいだとか思うかもしれないし……会うのは絶対反対だ!」
エドガーは大真面目だった。
「いや。さすがにそんなことは思わないぞ?」
「わかるものか。反対だったら反対だからな!」
どうあってもエドガーは、意見を覆しそうになかった。
しかも――――。
「そうだね。僕も反対だ。僕が魔法をぶっ放す方が百倍簡単で合理的だよ」
「聖女さまを、あの心身共に醜い女と会わせるのは、私も反対です」
「父さん! 父さんはもう魔王の遺体の浄化っていう困難な仕事をやり終えたんだ。これ以上はなにもしなくていいよ!」
サウル、ローレンス、ペーターまでがそう言って、他のみんなも一斉に頷いている。
「これが四面楚歌か…………」
ユディは呟いた。
「違う! みんなユディの味方だからな!」
それがわかるから困るのだ。
ユディは、苦笑しながらため息をついた。




