↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無能とバカにされてきた宿屋の主人は、今さら聖女になんてなりたくない!  作者: 九重


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/60

第六幕 第一場 ハジュン(一)

「――――ただいま」


 王都の東門近くの三階建ての宿屋に、少し疲れた声が響く。

 その声に、パッと顔を上げたのは、受付にいたリックだ。

 茶色のくせ毛と黒目を持つ少年は、次の瞬間花咲くように笑う。無事の帰りを待ち望んでいた養父の帰還なのだ。嬉しくないはずがない。


「父さん! おかえりなさ――――」


 ところが、その笑顔はたちまち凍りついた。

 黒い目をまん丸に見開いて、ユディの抱いている赤子を見る。


「――――と、父さん、その赤ちゃんは?」


「あ、ああ、この子は――――」


 まあ、こんな反応になるだろうなと思っていたユディは、理由を説明しようとする。

 しかし、一瞬早くリックが立ち上がった。


「ペーター! アンジェラさん! みんなっ!! みんなっ!!! 父さんが、父さんが! ……エ(・)ド(・)ガ(・)ー(・)さ(・)ん(・)に(・)手(・)込(・)め(・)に(・)さ(・)れ(・)て(・)、赤ちゃんを連れてきた!!」


 声を張り上げ叫ぶ内容は、とんでもないもの。


「ちょっ!? リック?」


 引き留めるも間に合わず、リックは宿の奥へと駆けて行った。




「…………なんでそうなるんだ?」


 残されたユディは、呆然。


「残念、まだ手込めにはできていないんだな」


「させるか! そんなこと」


「そうそう。僕らの目が黒いうちは、絶対ヤらせないからね」


 ユディの後ろにいたエドガーとローレンスとサウルが睨み合う。


「お前の目は灰色だし、ロニの目は紫だろう」


 呆れたように肩を竦めるエドガーを、ユディはパッと振り返った。


「そういう問題じゃない! …………なんで俺がエドガーにヤられる方なんだ!?」


 ユディも混乱しているのだろう、そんな言葉を発する。


(((…………そういう問題でもないのでは?)))


 エドガーたちは、出かかった声を呑んだ。

 今のユディには、もの申せない。



「ばぶぅ~」


 ユディの腕の中で、赤子が機嫌よさそうな声を上げた。





 ――――その日の深夜。

 営業の終わった宿屋の食堂に、いつものメンバーが集まっている。


「リック、お前はもう少し落ち着いた子だと思っていたぞ」


 ユディは、しかつめらしく説教していた。


「ごめん! 父さん」


 手を合わせ、頭を下げるのはリックだ。茶色のくせ毛がぴょんと揺れる。


「赤ん坊を見て驚いたのはわからないでもないが、なんでそこで俺とエドガーの子だと思ったんだ?」


「それは……エドガーさんは、いつも父さんを愛しているって公言していたから」


「だからっていきなり子どもはできないだろう? そもそも男は子どもを産めないんだぞ」


「でも、父さんは『聖女』だって」


「聖女でも、男は産めない!」


「…………そうなんだ」


 しゅんと落ち込むリック。

 そこに、エドガーが進み出た。


「まあまあ、いいじゃないか。リック先輩もユディが心配だっただけだろう」


 ユディは、そんなエドガーをジロリと睨む。


「心配だからって、あんなあり得ない誤解をするか?」


「俺は、誤解されて嬉しかったな」


「お前の感想を聞いているんじゃない!」


 ユディに怒鳴られてもエドガーはへっちゃらだ。

 ニコニコと嬉しそうなエドガーに、ユディは大きなため息をついた。



「――――それほど『あり得ない誤解』でもないのかもしれないよ」


 そこに、サウルがのんきな声をかけてくる。


「え?」


「だって、あの子の髪は聖女さまそっくりだし、目の色はエドガーそのままだろう?」


 そう言ってサウルが見つめる先では、ロッドとアーサーがふたりで赤ちゃんをあやしている。


「ほらほら、ミルクでちゅよ~」


「ロッド…………もう少し乳首を深くくわえさせた方がいい。うまくミルクが吸えていないぞ」


「え、ホントかい? ごめん、ごめん」


 赤子を横抱きにして哺乳瓶でミルクをのませているロッドと、そんな彼を、何故か赤い顔で見つめ、いつもより口数多く世話をやくアーサー。

 孤児院育ちのふたりは、実は赤ちゃんの世話に慣れている。


 そのふたりに挟まれてミルクをんくんくと飲む赤子の髪は、たしかに短いながらも柔らかそうな麦わら色だった。ロッドの声を追う大きな目は鮮やかな緑だ。


「そうだよね!」


 うんうんとリックは、首を縦に振った。

 ユディは、呆れたような視線をリックに向ける。


「あの一瞬で、髪はともかく目の色までは、見て取れなかっただろう」


「でも! 髪は父さんそっくりだなって思ったんだよ。だから、父さんの子かなって!」


「だからそれはあり得ないと言っているだろう! だいたい、どうしてそこでエドガーが出てくるんだ?」


 リックの言い訳を、ユディはピシャッと遮る。

 もう一度しっかり言い聞かせようとしたのだが、それを今度はサウルが邪魔してきた。


「まあまあ、落ち着いて聖女さま。言ったよね? あの子が聖女さまとエドガーの子どもかも知れないっていうのは、あり得ない話じゃないって」


「そんなことあるはずないでしょう!」


 ユディは、思わず大きな声を出した。



 魔王の遺体を浄化した後に見つけた赤ちゃん。

 おそらくこの子は、アマテラスが創(・)っ(・)た(・)ハジュンの魂を宿す『転生体』だ。


 どうしてその子がユディとエドガーの子だなどと、サウルは言いだすのだろう。

 眉をひそめるユディに対し、サウルはニコッと笑った。


「あるはずあるのさ。……だってあの子は、女神さまが直々に創った子どもだもの。女神さまなら、どんな奇跡を起こされたって不思議じゃないだろう?」


 ユディは、少し考える。


「…………どういうことですか?」


 しかし、わからなかったので素直に聞いた。

 サウルは、フフンと鼻を鳴らす。


「要は、あの子は、聖女さまとエドガー、ふ(・)た(・)り(・)の(・)資(・)質(・)を(・)受(・)け(・)継(・)い(・)だ(・)子(・)だってことさ。……きっと、聖女さまが女性で、エドガーとの間に子どもができたら、あの子と同じ赤ちゃんが生まれるんじゃないかな。女神さまは、そういう子を創って、その体にハジュンの魂を入れたのさ」



 ――――ずいぶん荒唐無稽な話だった。


「それが本当だとしても、いったいどうしてそんなことをしたんですか?」


「決まっている! 聖女さまに、その子を我が子同様に愛してほしいからだよ。おそらくだけど、アマテラスは聖女さまの母(・)性(・)愛(・)を買っていると思うんだ」


「…………母性愛」


「そうさ。だって聖女さまは、五人の子どもを立派に育てた人なんだもの。僕だって、子どもを託す必要があるのなら、絶対聖女さまを選ぶよ!」


 サウルは当然のようにそう話す。



「そんな理由で…………」


 ユディは、なんとも言えない気持ちになった。


いつもお読みいただきありがとうございます。

……また少し、忙しくなってきました。

更新が滞ることがあるかもしれません。

ゆっくりお待ちいただけましたら幸いです。

<(_ _)>

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。