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無能とバカにされてきた宿屋の主人は、今さら聖女になんてなりたくない!  作者: 九重


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第五幕 第二場 魔王(一)

「もうっ! こいつら、どうなっているんだ?」


「後から後から沸いて出て……切りがない!」


 ユディの前では、サウルとローレンスが、珍しく文句を言いながら魔獣と戦っている。

 まあ、不平不満を垂れ流し状態でも、端から魔獣を屠っている現状は、流石と言うしかないのだが。


「あ~、クソッ! 面倒だな……メテオ!」


 サウルの声と同時に空が一転、真っ黒になった。


「うおっ!」


 慌ててローレンスが、結界の中にいるユディとエドガーの元に駆け込んでくる。


 次の瞬間、空から流星雨が降ってきた。

 ドドッ! ガガッ! グォォ~ン!! と、轟音が響き、魔獣と大地を隕石が打ちのめす。


 あまりの迫力に、流石にユディもビビった。咄嗟にエドガーの腕をギュッと握り締めたくらいには。



「このっ! サウル、いきなりメテオは止めろっ! 私まで巻き込まれるところだったじゃないかっ!」


 一方、一歩遅ければ隕石をくらうところだったローレンスは、大激怒。サウルを怒鳴りつける。


「え~? 巻き込まれなかったんだから、いいじゃない。それに、巻き込まれたくらいじゃ、ロニは死なないだろう?」


 もっとも、サウルは悪いとはちっとも思っていないようだ。


「死ななくても怪我くらいする!」


「ホントに~? あ、でも、ロニだって前に僕ごと魔獣を切ったことあったよね?」


「お前は、私の剣ぐらいでは切れないだろう!」


「だからって、切るのはひどいと思うな」


「切れないんだからひどくないっ!」


 ふたりの怒鳴り合いに、ユディは開いた口が塞がらない。

 メテオに巻き込まれて怪我ですむローレンスも、剣で切られても切れないサウルも、規格外すぎる。


「お前ら、そんな言い争いをしている場合じゃないぞ」


 エドガーが、落ち着いた声でふたりを止めた。


「「ああ?」」


 こっちを見てきたローレンスとサウルに、エドガーはメテオで更地になった場所を指さす。

 見れば、そこにはまた新たな魔獣が現れていた。


「うげっ! もう、こいつら本当にしつこすぎる!」


「いったいどこから集まってくるんだ?」


 文句を言いつつ、ふたりは魔獣の方に走りだす。





「…………やっぱり、異常だな」


 彼らを見送りながら、エドガーが呟いた。眉間には深いしわが刻まれている。


「魔獣は、魔王の遺体を守っているんだろうか?」


 ユディも、考え深げに疑問を呈した。

 どうにもそうとしか見えない魔獣の行動だからだ。


 しかし、エドガーは首を横に振った。


「遺体は遺体だ。瘴気を発しはするが、魔獣が守るような価値があるとは思えない」


 ――――かつて、魔王の存在は魔獣を活性化させていた。

 しかしそれは、魔王が自然に発する魔力の効果なのだと言われている。

 魔王の呪いから発する瘴気とは無関係だというのが、神殿の考えだ。


 事実、魔獣は瘴気が存在しない場所でも、普通に生存している。ユディが浄化した直後の清廉な空気から逃げ出した魔獣もいたが……だからといって、死ぬようなことはなかった。


(まあ、瘴気がある方が生きやすいのかもしれないが)


 ただ生きやすいという理由だけで、これだけの数の魔獣が『この場』――――魔王の遺体の側に集うだろうか?




 そう。ユディたちは、ついに魔王の遺体近くまで辿り着いていた。

 七つ浄化ポイントを無事に巡り終え、遠目に遺体を確認できる地点まで来たのだが、そこで魔獣の襲来に遭っているのだ。

 延々と、果てしなく、無限なのかと思えるくらい長時間。




「ローレンス、サウル! いったん退くぞ!」


 ついにエドガーはそう言った。


「え~? まだ全然戦えるよ」


「ああ、私も問題ない」


「だとしても、これ以上無策で戦うのは時間と労力の無駄だ。……それに、ユディを休ませたい」


「へ? 俺?」


 ユディは、驚き慌てた。


「いや、俺は何もしていないんだから、休まなくても――――」


「いいから、そういうことにしておいてくれ。そうでなければ、あいつらは退かないからな」


 焦って大丈夫だと言おうとしたら、エドガーから耳元に囁かれた。

 どうやらユディはだしに使われるらしい。


「あ! そうだね。聖女さまは休まなくっちゃだよね」


「気が利かなくて申し訳ありません、ユディさん」


 エドガーの作戦は大成功で、ローレンスとサウルはあっという間に戻ってくる。


「よし、とりあえず魔獣の発生範囲外に出るぞ!」


 エドガーのかけ声で、ユディたちは退いていく。




 振り向けば、魔獣は彼らをただ見送っていた。


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