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無能とバカにされてきた宿屋の主人は、今さら聖女になんてなりたくない!  作者: 九重


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第五幕 第一場 聖女(六)

 エドガーにすっぽりと抱き込まれて馬を走らせること十日間。

 ユディは、ようやく最初の目的地に辿り着いた。


「ここの教会はそれなりに大きいからね。浄化のポイントとなっているのも納得かな」


 サウルの言葉にローレンスが頷く。

 四人の目の前にあるのは、堂々とした造りの教会だ。白い壁に青いドーム型の屋根。入り口両脇には対の塔が立てられていて、荘厳な雰囲気を感じさせる。


 とても立派なのだが、ユディは訝しげに首を傾げた。


「…………違うな。ここじゃない」


「本当か?」


「え~? だったらどこだろう?」


「ユディさん、わかりますか?」


 エドガー、サウル、ローレンスに聞かれて、ユディは少し考えこむ。


「あっちだ。……たぶん」


 教会の脇を通り過ぎ、ユディは歩きだした。

 それぞれ馬を引きながら、三人がその後を追う。

 それなりに目立つはずの一行だが、すれ違う人々は誰も彼らに目を向けなかった。おそらくエドガーが認識阻害のスキルを使っているのだろう。


 時折なにかを探すようにキョロキョロしていたユディだが、そのうち引かれるようにある一点を目指し、歩を進めるようになった。


 辿り着いたのは、町を貫いて流れる川のほとりだ。人の腰ほどの高さに茂った草むらを、馬から下りたユディが、かき分け進む。


「――――あった」


 その草の中に、膝をついた。


 馬を近くに木に繋ぎ、近寄ったエドガーたちが見れば、ユディの前には小さな石の祠のようなものが見える。


「サウル」


「任せて」


 サウルがスッと手を水平に振るだけで、草が綺麗に刈り取られた。

 現れたのは、四角い石の中をくりぬいただけの簡素な祠。中には磨り減った、たぶん女神像だろうものが奉られている。


「ずいぶん古い祠だな」


「集落は、川のほとりから発生することが多いからね。ここはこの町のはじまりの地かもしれない」


 ローレンスの呟きを聞いて、サウルが祠のある理由を推察する。


 ユディは、膝を着いたまま両手の指を組み合わせた。


「ユディ……」


「エドガー、体を支えていてくれないか。……たぶん気絶はしないと思うんだが、ふらつくかもしれない」


「あ、ああ。任せておけ」


 言うなりエドガーは、ユディを背中からギュッと抱き締める。


「おい! くっつきすぎだ。腰に軽く手を当ててくれるくらいでいいんだよ」


「そ、そうか」


 残念そうに離れたエドガーは、ユディの腰をかなり強めに掴んだ。


 その様子に小さくため息をついたユディは、前を向く。

 目を瞑り、頭を垂れた。


 途端、ユディの体からパァーッと光が溢れ出る。


 キラキラとした輝きが、そのままユディの体を包みこみ、膨れ上がったと思った次の瞬間、目の前の女神像に吸い込まれた。


 光に包まれた女神像の、摩耗した顔の中心から下に小さな切れ込みが浮かぶ。

 その切れ込みの両端が、微笑むように持ち上がった。


 次の瞬間、今度は女神像から爆発的な光が生まれる。


 光は川に至り、その流れに沿って上流と下流に走りはじめた!


 おそらく、この光る川は、本流支流にかかわらず、その光を――――浄化の力を届け氾濫させていくのだろう。


 水面もその周囲も、キラキラと光を弾いていた。




「…………スゴい」


「ああ」


 浄化の光景は、何度見ても心に深い感動を与える。


「――――ユディ!」


 そんな中、エドガーの声が響いた。

 見れば、ユディの体が傾いで、エドガーに抱きかかえられている。




「…………心配ない」


 青白い顔のユディだが、しかし今回は意識があった。


「大丈夫か?」


「ああ……俺も、少しは成長しているからな」


 安心させようと笑うその姿は……それでも痛々しい。


 エドガーは、すぐにユディを横抱きにして立ち上がった。

 同時に、異変を感じ取ったのだろう、町の方から人々が近づいてくる声が聞こえはじめる。


「すぐに、この場から離れるぞ」


「ああ。今度は僕が隠蔽魔法を使って先導するよ」


「頼む。ロニは最後尾で後をつけてくる者がいないか、確認しながら来てくれ」


「わかった」


 ユディを抱いたエドガーと、サウル、ローレンスが駆け出す。

 騎乗すると、急いで祠から離れた。


「この町で宿をとるかい?」


「いや、安全を考えて、隣町にしよう」


「それなら野宿がいいのではないか?」


「…………できれば、ユディをベッドの上で休ませたい」


 エドガーたちの会話を、ユディは朦朧とした意識の中で聞く。



「……すまない」


「大丈夫だから、寝ていろ」


 エドガーの声に、その腕の力強さに安心して、ユディは意識を手放した。


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