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無能とバカにされてきた宿屋の主人は、今さら聖女になんてなりたくない!  作者: 九重


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閑話休題 兄弟の飲み会

「あ~、父さん、今頃どの辺りかな? 無理していないかな?」


 酒場のテーブル席で、暗褐色の髪をポニーテールに結んだ男がジョッキをあおっている。


「心配ないだろう。ひとりじゃないんだから」


 向かいに座る騎士服を着た男が、つまみの焼き鳥を囓った。


「ひとりじゃないから心配なんじゃないか! 特に、あのエドガーって奴。あいつは絶対父さんに邪な思いを抱いていた!」


 ドン! とジョッキをテーブルに叩きつける暗褐色の髪の男。


「まあ、そうだろうな」


「アーサー! お前は、父さんが心配じゃないのか?」


 あっさり肯定する騎士服の男に、暗褐色の髪の男が立ち上がって怒鳴った。


 酒場はいつも賑やかだ。酔っ払い客も多いので、立ち上がったくらいでは誰も気にしない。

 それでも、騎士服の男は「座れ」と暗褐色の髪の男に注意して、暗褐色の髪の男は「ごめん」と謝り腰掛けた。


 彼らは、誰あろうユディの養子のロッドとアーサーである。

 仲のよい長男と次男は、こうして時々酒を酌み交わすのが常だった。


「父さんには、お前が敬愛する賢…………サウルさまだってご一緒なんだ。ローレンスさまだっていらっしゃるし。あのメンバーで、心配する必要なんてないだろう?」


 寡黙なアーサーにしては、長文である。

 酒場の喧騒は凄まじく、この中でどんな話をしようとも聞かれる心配などないのだが、それでも『賢者』や『聖騎士』というワードを話すわけにはいかず、アーサーはふたりを名前で呼んだ。


「それはそうなんだが――――」


 魔法使いにとって賢者は絶対の存在だ。

 ユディが盗賊や魔獣に襲われる心配をする必要などないくらいロッドだってわかっている。


「――――私が心配なのは、父さんの貞操なんだ」


 顔を赤くしながらロッドは、そう言った。この赤さは、絶対酔いだけではないだろう。

 アーサーは「ああ」と頷きながら呆れてしまう。


 ロッドが、かなり昔からユディへの恋慕を抱えていることは、兄弟全員の共通認識だった。

 当のユディ本人が、気づいてもいないことも含めてではあるが。


「父さんだっていい歳だ。俺たちが貞操の心配をする必要は、それこそないさ」


「そんな!」


 ユディは三十三歳の立派な成人男性だ。むしろ貞操の心配をする方が失礼だろうとアーサーは思う。

 もちろんロッドは違った。


「父さんは、優しくて清廉で誰より清らかな人なのに……」


「いや、案外強くてしたたかで打たれ強い人だぞ」


 そうでなければ、無能と蔑まれながら宿屋を経営したり、養子を五人も育てられたりしない。


「……それはわかっているんだけど」


 そう。ロッドもアーサーも、本当はちゃんとわかっていた。

 ユディを心配する必要なんて、まったくこれっぽっちもないことを。

 むしろ、ユディに心配かけないように、自分たちの方こそがしっかりしなければならないくらいだということだって。


「わかっていたって悔しいんだよ! いつか立派な大人になって、父さんを支える男になることが、ずっと()の夢だったのに」


 いつも「私」という一人称を使うロッドが「僕」と言うときは、既にかなり酔っている。


「それをあんなポッと出に奪われるなんて! いくら勇……んんっ、ムグッ、ムゴッ――――」


 勇者と叫びそうになったロッドの口を、アーサーの大きな手が塞いだ。

 人差し指を唇に当て「シーッ」と言われて、ロッドは無言でコクコクと頷く。


「…………ップハー!」


「気をつけろ」


「ごめん」


 アーサーに怒られて、ロッドは項垂れた。


「-ーーー僕だって、いつか父さんが可愛いお嫁さんを貰ったなら、涙を呑んで祝福する覚悟くらい決めていたのに……でも、なんで…………どうしてアイツなんだ?」


 うつむきながらも、愚痴は止まらない。


 そんな彼の前に、アーサーがなみなみと酒を注いだジョッキをドンと置いた。


「さっさと呑んで酔い潰れろ」


「いいのかい?」


「いまさらだ。介抱はしてやるから安心しろ」


「アーサー! …………やっぱり君は、僕の最愛の弟だ。大好きだよ、アーサー! 最高に愛してる!」


「…………っ! いいから呑め」





 その後ロッドは、本当にしこたま呑んで酔い潰れた。


 ジョッキを握ったまま、無防備な顔でテーブルに突っ伏し眠るロッドの頬を、アーサーはチョンチョンと突く。


「…………人の気も知らないで、バカロッド」


 魔法使いのローブをいつも被っているロッドの頬は、白くてなめらかだ。それが酔いで赤くなっている様は…………言っちゃなんだが、ものすごく色っぽい。



「父さんを支える男だって? お前は、支えられる方が似合っているよ。……俺がずっと支えてやるから、叶わぬ恋など諦めて、早く俺に堕ちてこい」



 本日二度目の長文を呟いたアーサーは、会計をするため席を立つ。




 酒場は、相も変わらず賑やかだ。

 寝ているはずのロッドの頬が、一際赤く染まったことには、幸いにして誰も気づかなかった。


本編でない上に、またまた短くてすみません!

どうにも忙しく(T_T)

この状況は6月末まで続きそうです。

頑張って更新したいと思いますが、できなかったときはご容赦ください!


※宣伝です!

いよいよ明日、拙作

「追放された元王女ですが、このたび最強魔女として出戻りました」

が刊行されます。

お気にとめていただけましたら幸いです。

<(_ _)>

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