第五幕 第一場 聖女(三)
――――夢の中、夢を見ているとわかる時がある。
ユディにとって今がそれで、彼は高い場所から下界を眺めていた。
(下界とか、言いたくないけれど)
しかし、まさにそうとしか言いようのない景色が眼下に広がっている。
果てなく広がる海と、形も大きさも様々な、いくつかの大陸と無数の島々。
圧倒的な光景を、ユディは見下ろしていた。
(…………そうだ。あれは海で、あれは陸だ)
ユディは、生まれ育った王都からはじめて出たばかりだ。海も島も見たことはない。
しまし、なぜかユディは、目に映るモノがなにかわかった。
(…………これは、神の視点だ。今、俺は世界を俯瞰している)
誰に言われなくとも、確信する。
なぜ、自分がこんなモノを見ているのか?
この光景に、どんな意味があるのか?
疑問ばかりが積み重なる。
考えこんでいるうちに、ユディの視点は徐々に低くなっていった。
落ちて行くのとは違う。ひとつの目標を定め、そこに近づいて行く感覚だ。
視界の中の大陸のひとつが、その目標だった。
(ひょっとして…………ここが、俺の住んでいる処なのか?)
大陸すべてではない。その中の一部がユディの住む場所――――王国だ。
地図など見たこともないユディだが、右側の灰色の部分の真ん中が王都で、左にある真っ黒な点が、魔王の遺体のある場所だとわかった。
黒い点からじわじわと滲み出る影が、周囲を徐々に染めていく。
(あれが、瘴気……)
黒から灰色に、グラデーションのように染まる大地の中で、王都に近い一カ所だけが、ポツンと丸く光っていた。
(あれは…………俺が浄化した場所か?)
そうだ。
それも、ユディにはわかる。
(こんな、何もかもわかるような……これも『聖女』のスキルなんだろうか?)
だとすれば『聖女』というのは、ただ単に治癒や浄化だけを行う存在ではないのかもしれなかった。
知らずユディは、ブルッと身震いする。
(なんにしろ、俺はお断りだ)
望みもしないのに、見せられる世界。
恐ろしいと思うと同時に、腹立たしく感じてしまう。
しかし、これが必要なことだということもわかった。
ポツンと光るユディの浄化跡。
(これじゃ、ダメだ。こんな浄化を続けても、世界は救えない)
広大な大地に対して、その光はとても小さかった。
焼け石に水とはこのことで、すべて浄化し終えるまでには、莫大な年月がかかることだろう。
しかも、魔王の遺体だって浄化しなければならないのだ。
(というより、そっちを先にしなきゃ、永遠に浄化なんて終わらないんじゃないか? ……俺がチマチマ浄化するより、遺体から発生する瘴気が広まるスピードの方が、間違いなく速いよな?)
ともかく、このままではダメだ。
それだけは、わかる。
そして、なぜこんな夢を見ているのかという理由もわかった。
見下ろす大地の七つの場所に、キラキラと光が瞬いて見える。
(あそこが、浄化のポイントか)
不動に見える大地だが、その実大きな流れがあった。
水はもちろん、土そのものも。中心にはマグマが流れ、大地を巡る地脈に添って大きな力が循環しているのだ。
それらの流れが、集まり広がる。そんなポイントが、大地には存在した。
(そこに浄化の力を注げば、聖力が流れに乗って自然に拡散するんだな)
闇雲に浄化の力を垂れ流すのではなく、最大効果がある地点を狙って力を振るえと、眼下の光景はユディに教えてくれていた。
(…………やっぱり、腹が立つ)
聖女になんてなりたくないユディに、どうすればよりよく聖女の力を使えるかと教えてくる、この夢に。
スキルだかなんだか知らないが、ずいぶん押しつけがましいと感じた。
それでも、この知識を使わない選択はないわけで――――。
(さっさと全部浄化して、一日も早く宿に帰ろう)
強く決意するユディだった。




