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無能とバカにされてきた宿屋の主人は、今さら聖女になんてなりたくない!  作者: 九重


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幕間(三) 勇者が見守る聖女の決断(一)

 ユディが、巣立った子どもたちを呼び寄せ、諸々の事情を説明したあの夜。

 驚きの事実を知りながらも、ユディと子どもたちは互いの関係が変わらぬことを確認しあった。


 そして、翌朝。

 いざペーターを元の年齢に戻そうとしたその時に、神殿から国民に向けて配布された一枚のチラシが、宿屋にも舞いこんだ。


 その布告を読んだユディは、サッと顔色を青ざめさせる。そして、ペーターに「元に戻るのを少し待って欲しい」と頼んできたのだ。


「…………考えを整理したいんだ」


 そう言うのも無理はない。

 ペーターが元に戻ったら、ユディたちは十中八九神殿と戦うことになる。その戦う相手からの聖女宛の誓願書が、あの内容なのだから。


「もちろんいいよ。父さん。俺はいつ戻ったってかまわないんだ。ゆっくり考えて」


 ペーターにそう言われて、ユディは力なく笑った。

 それが、三日前のことだった。






「焼き肉定食ひとつ!」


 ユディの宿屋の食堂は、今日も盛況だ。


「わかった! 焼き肉定食だな!」


「あと、唐揚げ定食ふたつだ」


「よし! 唐揚げ定食ふたつ!」


 客から注文を受け、それを大声で厨房に知らせるのはペーターで、その声に応えるのはリックだ。

 子どもたちは、いつもどおり元気いっぱい。溌剌と働いている。


「おまたせしました」


「ありがっ……え? すごい美人! こんな娘、眠る番犬亭にいたの? お嬢さん、お名前は?」


「教えるはずないだろう! さっさと食って、さっさと帰れ!」


 アンジェラに近づく客に、ペーターが噛みつくのもいつもどおりだった。



「…………呆れるくらい平常運転だな」


「ああ。これでもかなり決死の覚悟をしていたんだが」


「仕方ないよ。あんな公布が出ちゃえばね」


 厨房の片隅で、エドガーとローレンス、サウルが会話している。

 ちなみに三人は、揃って芋の皮をむいていた。より正確に言うならば、エドガーが他のふたりに皮むきの指導をしているところだ。


「ロニ、力を入れすぎだ! 皮をむく前に芋を潰してどうする。……サウル、魔法を使うのはかまわないが、ちゃんと芽を取れよ。お前の魔法は大雑把でダメだ」


 王都に食堂は数あれど、勇者と聖騎士と賢者がむいた芋料理を提供するところは、ないに違いない。


「大雑把だって? 僕くらい繊細な魔法を使える奴はいないんだぞ!」


 怒ったサウルが、袋詰めの芋をすべてむこうとして、エドガーに殴って止められた。


「やめろ! 毎日芋づくしのメニューにするつもりか!」


「イタタ…………もうっ、乱暴だなぁ。そんな気はないけど……あ~あ、せっかく派手に魔法をぶっ放せると思っていたのになぁ」


 芋をポンと放り出し、サウルはため息をつく。

 エドガーも、思案顔で宿屋の入り口の方を見つめた。

 そこでは、ユディが店番をしているはずだ。


「まったく、神殿の身勝手さには呆れてしまうよね」


「ああ。今さらどの面下げて『名乗りを上げてください』などと言えるのか」


「しかも、それを全国民宛に公開したんだぞ。魂胆が透けて見えすぎている」


 サウルもローレンスもエドガーも、神殿には怒り心頭だ。

 詫び状などと言いつつ、あれは聖女への明確な脅しだった。

 お前のせいで国が滅びるのだと言っているも同然で、あの布告を見て以来、ユディはひとりで考えこんでいる。


「ユディ――――」


 エドガーは、やるせなく呟いた。

 彼がどんな答えを出そうと、エドガーのやることは決まっている。


(俺は、ユディと一緒にいるだけだ。神殿に行くと言うなら、俺もついて行く!)


 そしてユディを守るのだ。

 たとえ何を敵に回そうとも。

 決意は既に固まっている。


 グッと拳を握りしめていれば、声が聞こえてきた。


「エドガー! もう芋はむき終わったのか?」


「……ペーター先輩」


 実は国王だとわかったペーターだが、彼の態度はいつもとまるで変わらない。


「それが終わったら玉葱だからな。だらだらしてんなよ」


 腰に手を当て、偉そうに話す。


「ああ、わかった」


 エドガーの返事に、ニカリと笑うペーターに、気負った様子は見えなかった。

 彼の覚悟も、もう決まっているのだろう。


(…………とりあえず、今は芋をむこう)


 そう思ったエドガーは、ローレンスとサウルの尻を叩き、芋をむき続けたのだった。


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