第四幕 第三場 国王(二)
その後、ユディは呆然とするロッド、アーサー、ティムに、最初から事情を説明した。
「ことの起こりは三年前。俺が『聖女』になったことかな――――」
もっとも、その出だしは、なおさら三人を驚かせることになったのだが。
なお、リックはもう驚愕済み。ユディの話を聞いて、茫然自失となる三人の兄を気の毒そうに見ている。
「――――俺、急に自分が『国王』だって言われて、何をどう考えていいのかわからなくて。王さまなんて、なろうと思ったこともないし、なりたくもないし…………でも、『国王』じゃなかったら、『王配』のアンジェラさんと一緒に居ることは出来ないんだって。……俺は、アンジェラさんだけは、誰にも譲れないんだ。だから、俺は『国王』になる!」
話の最後を締めくくったのは、ペーターだった。
それまで呆然としていた三人は、ようやく我に返る。
「…………いろいろいろいろ……本当にいろいろ言いたいことはあるんだが……国王になる理由が、好きな娘と一緒に居たいからだとか…………それでいいのか?」
頭を抱えて呟いたのは、ティムだ。呆れたような視線をペーターに向けている。
「いいんですよ。彼には『国王』スキルがあるんですから。やろうと思えば立派な国王になれるのは、保証されています。彼に必要なのは、やる気だけ。やる気の動機が何だろうと問題ありませんよ」
身も蓋もないことを言い出したのは、サウルだった。
相変わらず食欲旺盛。テーブルに並べられた料理を、ひとりでパクパク食べながらの言葉である。
「……賢者さま」
ポツンとロッドが呟いた。
「おや? 君は僕が賢者だと信じてくれるんですね。……君は、僕が魔王討伐に旅立ってから魔塔に入ったから、見識はないはずですけれど?」
「見たことがなくとも、わかります。あなたの纏う魔力は桁外れだ。そんなに巨大な魔力を持つ人を、私は他に知らない。……それに、今魔塔にいる『賢者』は、魔王討伐の後遺症で魔力の大半を失ったと言い訳していますが、たとえそれが本当のことだとしても、あまりにお粗末な魔力しか持っていませんから。あのザマで魔塔主の地位にしがみついていることが、不思議で仕方ありませんでしたが……。そもそも偽物だったなら、厚顔無恥にも納得です」
ロッドの表情が、凄まじく冷たい。
穏やかで面倒見の良い長男の顔しか見たことのなかったユディは、若干引き気味だ。
「へぇぇ? そんな愚物が僕の名を騙っているのかい? これは、叩き潰し甲斐がありますね」
クツクツと笑うロッドも……顔がとても怖い。
魔法使いとは、案外過激な性格をしているのかもしれなかった。
「あ~、でも俺もそういうのはわかる。……『聖騎士』とか、遠目でしか見たことないけど、あんなに覇気のないヤツは、はじめてだったもん。一周回って、敵を油断させるために気配とかを消しているのかと思ったけど……やっぱり、偽物だったんだな」
サウルの食べっぷりを見て、自分もお腹が空いていることを思い出したティムが、料理を食べながら呆れたように話す。
アーサーも静かに頷いていた。
「偽物連中もあちこちで馬脚を現しているってことか。こうなると俺の偽物も気になるんだが――――」
そう言ったのはエドガーだ。
「勇者さまは、見たことないな」
「そうだな。凱旋パレード以後、表舞台には立っていない」
「…………噂では、病に伏した聖女さまを誠心誠意お世話されていると聞いているが」
ティム、ロッド、アーサーの順の言葉である。
聖女の世話をしていると聞いたエドガーは、露骨にいやな顔をした。
「いくら偽物でも、あんなヤツと一緒にいると思われているなんて心外だ。…………俺が好きなのはユディだけなのに」
そう言いながら、エドガーはユディの背後から腕を回し、体を抱き締めてくる。
ゲホッと、ティムが吹きだした。
ロッドもアーサーも、ピタリと動きを止める。
「エドガー! お前、急に変なことを言うんじゃない!」
ピシッとエドガーの手を叩きながら、ユディは怒った。
「変なことじゃないさ。本当のことだ」
「巫山戯るのもいい加減にしろ! 今は、ペーターのこれからについて大事な話をしているんだぞ!」
怒っても離れていかなかったエドガーの手を、ユディはギュッと抓り上げる。
「イテテテ…………わかった。わかったよ、ユディ」
渋々手を離したエドガーをギロッと睨んでから、ユディは呆然としているロッドたちに向き直った。
「すまない。変な茶々は入ったが……お前たちを呼んだのはペーターの希望もあったが、同時に事情を伝えて、これから起きることについて覚悟してもらうためもあるんだ」
ユディの言葉に、ティムとアーサーは表情を引き締める。
「……え……え…………茶々……え……本当に?」
ロッドだけは、まだエドガーの言葉に動揺していたが、ユディは話を続けた。
「ペーターは、次代の『国王』の座に戻る。俺とリックは、それがペーターの望みなら応援してやるつもりだ」
ユディの隣でリックがしっかり頷く。内気な少年の顔は、決意に満ちていた。
「ただそれは、とても困難なことだろう。今の王太子と王太子妃は、自分たちが偽物だとは認めないだろうし、少なくとも副神殿長は敵に回る。下手をすれば、……いや、そうでなくとも、国と敵対し反逆者として追われる立場になるのは、たぶん確定だ」
ユディの言葉は大げさじゃない。
それは、ロッドやアーサー、ティムにもわかった。
ゴクリとつばを呑むティムに、ユディは笑いかけた。
「安心しろ。俺は、お前たちに協力を強制するつもりはない。ただ、さっきも言ったように覚悟を決めておいてもらいたいと思って連絡したんだ」
「覚悟ですか?」
聞いたのは、ロッドだ。
ユディは、コクリと頷く。
「ああ。……国賊とされた俺たちを討伐するために、お前たちに命令が下るかもしれないからな。特にアーサーとティムは騎士だから」
騎士であれば、国の命令に逆らえない。
突然、父と弟を討てと命令されたなら、ふたりはどれほど動揺するだろう。
だからあらかじめ伝えておこうと、ユディは思ったのだ。
「優しいお前たちに、俺たちを攻撃することが出来るとは思えないからな。今なら地方への異動を願うとか、長期の休暇を取るとかで、なんとか逃げられるんじゃないか?」
ユディだって、子どもたちと戦うなんて絶対無理。それくらいなら、さっさと逃げ出して欲しいのだ。
ユディの言葉にアーサーとティムは顔を見合わせた。
彼らが答える前に、サウルが笑いながらロッドの肩をたたく。
「ちなみに君に覚悟は必要ないよ。魔塔は僕の配下に入るから。強制的に逆賊陣営だからね」
「言われなくとも、私が父さんの敵になるはずありません!」
憤然とした声で、ロッドは断言した。
「俺だって、父さんやペーターの敵になんてならない!」
「俺もだ」
ティムとアーサーも続く。
「……お前たち」
ユディは、感無量。言葉を途切らせ子どもたちを見つめた。
とても感動的な場面なのだが。
「よし! では今から君たちも僕らの仲間だ。……正しい『国王』を正しい地位に就けるため…………というのは建前で、聖女さまが誰はばかることなく宿屋を続けられるように、権力者をぶっ飛ばそう!」
サウルがとても楽しそうに気勢を上げた。
「聖女さまって…………父さん? そういえば、そうだ! 父さんが聖女だとか……そっちの方がずっと大事だったのに!」
今さらの叫びを、ロッドは口にした。




