第四幕 第三場 賢者(四)
今から十三年前。
当時『国王』のスキルを発現して王太子の地位に就いた少年が、毒を飲まされ誘拐されるという事件が起こった。
そして、その夜、石化の魔法をかけられたひとりの少年が、橋の上から川にドボンと捨てられたのだ。
普通ならばそのまま沈んで、ずっと川底で苔むすところだったのだろうが、運のいいことにその橋の下には『賢者』の教育がいやで、さぼっていたサウルがいた。
橋の上から落ちてきた石像が、ただならぬ魔法の残滓を纏っていることに、すぐに気がついたサウルは、正直面倒くさいなぁと思いながらも、さすがに見て見ぬふりは出来なくて、石像を引き上げ、石化の魔法を解く。
すると、人間に戻った少年は、自分は王太子だと名乗ったではないか。
しかし、既にその時には誘拐された王太子は発見済み。無事に王城に戻り、解毒もされて少し休めば公務に戻れると発表まであった。
「あの頃は、僕も未熟だったからね。石化の魔法を解くのに三日。そのうえ解毒に二日もかかったんだよ」
どうやらその五日間に、本物の王太子のかわりに偽物の王太子が、城に収まったらしい。
それまでの王太子と、多少言動や記憶の齟齬があったようだが、毒の後遺症とされてしまっていた。
なにより、神殿が王太子を診断し、彼のスキルは『国王』だと保証したのだ。
ぶっちゃけ王太子の条件は『国王』のスキルを持つことだけ。だから、おかしなところがあったとしても、問題なしとされたのだ。
こうなってしまうと、問題なのは本物の王太子の方だった。
偽物が王城にいる限り、自分が本物だと名乗り出ることは、かなりの危険を伴うからだ。
「なんたって偽物のスキルを保証したのは神殿だからね。つまりは、誘拐事件の犯人は、神殿とつながっている可能性がものすごく大きいんだよ」
スキルの認定に関しては、神殿がすべてを牛耳っている。下手をすれば、本物の方が偽物だと断定されて捕まることだって考えられた。
そんな危険は冒せない。
諸々考えた王太子は、当分の間正体を伏せ、身を隠すことにした。
とはいえ、市井に紛れて暮らすことは、王太子には難しい。なぜなら彼は金髪と青い目を持つ美少年で、その容姿が国民に広く知られていたからだ。
「見た目を変える魔法にはリスクがあるからね。……だから、この際見た目を変えるんじゃなくて、年齢を変えようって話になったんだよ」
当時王太子は十三歳。であれば、四、五歳くらいの子供になれば、神殿の目をごまかせるのではないかと考えたのだ。
若返りの魔法はとても難しいものなのだが、賢者のスキルを持つサウルならば可能だ。
で、実行したのだが、ここで想定外のことが起こった。
「いやぁ、僕の魔力が強すぎてね。五歳にするつもりが、若返りすぎて赤ちゃんになっちゃったんだよ」
失敗失敗と笑いながら、サウルは頭をかく。
ここまで呆気にとられながら話を聞いていたユディたちは、冷たい目を彼に向けた。
「さすがの僕も子育ては出来ないからね。赤ちゃんは孤児院に預けたんだよ。ペーターっていう羊飼いみたいな目立たない名前をつけたのも僕だよ。……魔王討伐が終わったら迎えに行って、王太子に戻る手伝いをしようと思っていたんだけど……まさか自分が魔王に呪われて石化する羽目になるとは思わなかったよ」
世の中、何が起こるかわからないよねと、サウルは笑う。
ユディは、とても笑えなかった。
「……え? ……ということは、ペーターさんが本物の『国王』なのですか?」
呆然と呟いたのはアンジェラだ。
「いや。単に髪の色と、目の色と、年齢と、容姿と、名前が同じ他人の可能性も……」
自分で言いながら、ローレンスは顔色を青ざめさせていく。
「諦めろ。そこまで特徴がかぶって、なおかつ孤児の人間なんて、同一人物以外あり得ない。……そうか、あの執着は、自分の『王配』に向けたものだったんだな」
エドガーが深いため息をついた。
「う、う、嘘だろう!?」
ユディは、叫んだ。




