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無能とバカにされてきた宿屋の主人は、今さら聖女になんてなりたくない!  作者: 九重


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第四幕 第二場 王配(四)

 たしかに、次代の『国王』と『王配』のスキル持ちは、既に確認されている。それぞれ王太子、王太子妃として公務も行っているはずだ。


「各世代にひとつと決められているスキルが、複数確認されたケースは未だかつて聞いたことがない。なのに、君の話が本当だとすれば、次代の『王配』は二人いることになってしまう」


 エドガーの指摘に、アンジェラは首を横に振った。


「それがなぜなのか、私にはわかりません。……ただ、私のスキルが『王配』でなかったのなら、十三歳から今まで私に与えられた苦難は……あの時飲ませられた黒い液体は、いったい何のためだったのでしょう?」


 アンジェラの問いかけに返す答えを、ユディは持たない。


 エドガーは、しばらく黙っていたが……やがてゆっくりと話し出す。


「……おそらく、王太子妃の『王配』は偽物なのだろうな。王太子妃は副神殿長の孫娘だ。自分の孫を王配にしたくて、副神殿長がスキルを偽証したと考えるのが自然だろう」


「スキルの偽証? そんなことが出来るのか?」


 ローレンスが驚いて声を上げた。


「出来るさ。俺たちが偽物の『聖女』に騙されたことを忘れたのか?」


 何よりの実例を、エドガーもローレンスも見てきている。

 そして、ユディはその被害者だ。


「これは、推論でしかないが――――たぶん副神殿長は『聖女』が偽物だったことを知っていたのだと思う。何かのきっかけで偽聖女の正体を見破って……でもそれを告発するどころか自分もスキルの偽証を利用しようと思いついた。……実際の偽証をあの偽聖女にやらせたのか、それとも他の方法を使ったのかはわからないが……ともかく、副神殿長は何らかの方法で自分の孫娘を『王配』に仕立てあげたんだ」


 偽聖女は、『盗賊』のスキルでユディの『聖女』のスキルを盗んで偽装した。

 それと同じ方法なのか、違うやり方なのかはわからないが、出来るとわかってしまえば、欲に塗れた人間がそれを実現してしまうだろうということは、想像に難くない。


 ――――そして、本物の『王配』を持つアンジェラが邪魔になったのだ。


「黒い液体というのは……俺たちの呪いから抽出した瘴気かもしれないな。……呪いはうつらない。でも、呪いから発生した瘴気であれば、集めることは可能なんだろう。一般人には見えない瘴気も『神官』なら見えるはずだ」


 エドガーは悔しそうに顔を歪める。推論と断りながらも、自分の考えが正しいことにかなりの確証があるのだろう。


 ユディもエドガーの言葉はたぶん正しいのだと思った。

 同時に、なんて身勝手なのだと憤慨する。


「…………ブッ殺す! 副神殿長も王太子妃も伯父も……みんなみんな殺してやる!」


 ローレンスの目が据わった。ビリビリと空気が張り詰めて、痛いほどだ。


「止めろ! このバカ」


 エドガーは、そんなローレンスの頭をポカリと殴る。


「何をする!?」


 憤るローレンスに対して、大きなため息をついて見せた。


「まったく、お前は変わらないな。……魔王討伐の時も言っただろう? いいか、行動を起こす前はよく考えて動け。お前がどう突っ走って自滅しようが興味はないが、そこにユディを巻き込むことだけは、断じて許さないぞ。……お前が呪いを祓われ力を取り戻した姿を見せれば、誰かが必ず本物の『聖女』の存在に気づく。そこからユディに辿り着く者が現れて、ユディの生活が脅かされたらどう責任を取るつもりだ!」


 エドガーに怒鳴られたローレンスは、ハッとしてユディの方を見た。


「すみません! ユディさん、私はそんなつもりでは――――」


「わかっていますよ。アンジェラさんがされてきたことを思えば、腹が立つのは当然です」


 何の関係もないユディだって怒りにかられるのだ。実の妹が被害を受けたローレンスが許せないと思うのも無理もない。


「だからと言って、暴走するんじゃない! ……お前の妹の言葉が真実だとしたら、敵は副神殿長なんだぞ。あの権力欲に塗れた狡猾腹黒陰険クソジジイに、真っ向勝負が通じるはずがないだろう!」


 ――――狡猾腹黒陰険クソジジイ。

 どうやらエドガーは、副神殿長をよく知っているらしい。


「……くっ、ではどうすれば?」


 ローレンスが、悔しそうに唸った。


「真っ向勝負が通じないなら、裏から手を回せばいいだけだ」


 エドガーは、冷静に答える。


「裏から?」


「ああ。そのためにも戦力が必要だ。……ユディ『賢者』を浄化してくれ」


 エドガーは、どこか複雑そうにそう頼んできた。

 遅かれ早かれ賢者の浄化は、する予定だったこと。だから浄化することに対し、ユディに異論はない。

 しかし――――。


「それはいいが……『賢者』というのは、そんなに戦力になるのか?」


 ひとり加わるだけで、そんなに変わるものだろうか?

 ユディの疑問に、エドガーはコクリと頷いた。


「なる。単純に魔法の威力だけでも桁外れだが、それに加えて賢者の塔を取り込めるからな」


 賢者の塔が持つ力は、騎士団にも匹敵するという。それを味方に付けられるのなら、たしかに大きな力となるだろう。


「賢者の呪いを解き、副神殿長を倒す。……アンジェラ嬢の件もあるが、この国の上層部は、きな臭すぎる。放っておいて、禍根になっても面倒だ。……ユディに危険のありそうなものは、今のうちに徹底的に排除するぞ!」


 エドガーが、力強く宣言した。


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