表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅い瞳のルクレツィア ˚˙༓࿇༓˙˚魔女と呼ばれて婚約を破棄された侯爵令嬢は、黒い翼の堕天使に溺愛される˚˙༓࿇༓˙˚  作者: 冬野ほたる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/20

【04】 侯爵令嬢、魔界へと誘われる


『魔界へと(いざな)われる』



 (堕天使……! 魔界の公爵!?)


 漆黒の翼は悪魔の印だ。

 天から堕ちるときに、純白の翼は深淵の闇に染まる。

 

 (悪魔と取り引きをしたと濡れ衣を着せられた次の日に、まさか本物の悪魔に出会うなんて……!)


 ルクレツィアの心臓の鼓動が速くなる。ごくりと唾を飲み込んだ。

 

『一緒に参りましょう。わたしの城へ』


 たった今、この悪魔 ── リゲルが言ったことはどういう意味なのか。このまま魔界に拐われてしまうのだろうか。


 優雅に手を差し伸べたまま、リゲルはやわらかな眼差しをルクレツィアに向けて微笑んでいる。

 その笑顔と、堕天の証拠の禍々しい漆黒の翼は……とても似つかわしくない。それがルクレツィアの背筋をさらに冷やした。

 本能的にじりっと後退(あとずさ)る。

 

 (……悪魔とかかわってはいけない。逃げなくちゃ!)


 ルクレツィアの出した答えはそれだけだった。

 

 リゲルに背を向けて走り出そうとしたときに、素早く腕を(つか)まれる。


「どこへ行こうというのです?」

 

 深い蜂蜜色の瞳がキラリと(ひか)った。


 




 ✧・゜: *

 


「もう、ついてこないでください!」


「そんなことをいっても、夜は危険ですよ」


貴方(あなた)のほうが危険です!」

 

「ふむ……うまいことを言いますね」


 リゲルのとぼけた言い(ぐさ)に苛立ち、思わず振り返る。

 睨みつけたルクレツィアを、リゲルは蜂蜜色の瞳で優しく見つめ、ふわりと微笑む。

 その笑顔は悪魔だとは思えないほど。明るくてやわらかくて……まるで尻尾を振ってついてくる仔犬のようだ。


 (うっ……)


 ルクレツィアはくるっと前を向き、怒りにまかせて早足で歩いた。


 (もうっ! 信じられないっ! 悪魔に()かれるなんて……!)


 結局のところ、リゲルから逃げるのを失敗したあとは、こうやってずっと跡をついてこられている。無理矢理に魔界の城へ連れ去られるということもなかった。


 朱の色から菫色に滲み始めた空は、もうすぐ深い紺色に変わろうとしている。月が昇りはじめているが、足元は暗い。


 (とにかく完全に陽が落ちるまでに、なんとか村にたどりつかなくちゃ。野宿は危険すぎるわ)

 

「ルクレツィア。あまり急ぐと危ないですよ」


「余計なお世話です! ……きゃ!」


 からまった草の葉に足をとられてしまう。

 さっと腕を伸ばしたリゲルは、ルクレツィアの腰を支えた。


「ほら、ね?」


「……放してっ」


 ルクレツィアはリゲルの手をパシッと振り払う。


「おやおや……。そんなに意地を張らずに。私の城へ一緒に参りましょうよ」


「嫌です!」

 

「頑固ですね。まあ、そんなところも可愛いですけど」


 ルクレツィアはじろりとリゲルを一瞥する。

 フローラたち以外には感情を表に出さないルクレツィアは、「可愛い」なんて言われることはない。


 (この悪魔……なにを考えているの?)


 無視して歩きだすが、リゲルはやはりぴたりと跡をついてくる。


「まったく、つれないですね」


 森からは唸るような遠吠えが響いてくる。

 狼なのか魔獣のものなのか。獣の遠吠えは、紺色の闇を不気味に縁取りはじめていた。

 夜の世界が刻一刻と迫っている。


 怖い ──

 前方には獣。後方には悪魔だ。

 ルクレツィアは痛む足を必死で、ただひたすらに前へと進めた。




 もう陽はすっかりと暮れてしまった。

 春先でも夜の風は冷たい。 

 月が天の半分まで昇ったころに、道の先に松明(たいまつ)の炎が見えた。

 

 (きっとあれが教えてもらった村だわ!)

 

 歩き通した足の痛さは限界に近かったが、安堵と嬉しさのあまりに思わず走り出す。

 近づくにつれて松明の炎は大きくなり、それが村を囲む石壁の上で燃やされていることがわかった。

 村と外を分ける門は、頑丈そうな厚い木製の扉だった。蟻さえも一匹たりとも通ることができないほどに、隙間なくピタリと閉ざされている。


「すみません! 旅の者ですが、門を開けてもらえませんか!?」

  

 石壁を見上げて声を上げる。

 しかし、いくら待ってもなんの返事もない。

 

「すみません! どなたかいませんか!?」


 扉をどんどんと叩くと、しばらくして石壁の上にランタンの明かりが二つ現れた。


「誰だ!?」


 太い声が降ってくる。

 (かざ)されて揺れるランタンの明かりの下に見えたのは、ひとりは大柄な体格の人物だった。この村の門番だろうか。


「旅の者です! カイゼリアからきました。どうか門を開けて村へと入れてもらえないでしょうか?」


 ルクレツィアを吟味するように、上方でランタンの明かりがゆっくりと回って揺れる。大柄な男は、もうひとつのランタンを持つ者となにかを話した。そのあとに。


「悪いが、夜は絶対に門は開けられねえ」


 無慈悲な答えが返ってきた。


「そんな! 外では狼か魔獣に襲われるかもしれません! お願いします。どうか門を開けてください!」


「もしあんたが本当に人間なら気の毒だが。夜には門は開けねえ。この村の掟だ。……狼には気をつけるこったな」


 ルクレツィアの必死の懇願も虚しく、二つのランタンの明かりはあっさりと消えてしまった。


「そんな……」


 がっくりとうなだれたルクレツィア。あまりの疲労と徒労のためにその場に崩れるようにしてしゃがみこんでしまった。


 その肩にリゲルは細く長い指を置くと、誘惑するかのように優しく囁いた。


「ここで一夜を過ごすのですか? 狼や……魔獣の餌食ですよ」

 

 





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
不敵な表情で誘ってくる悪魔・リゲルについてこられてしまうルクレツィア。一方で森から唸るような遠吠えが聞こえてきて、村には入れずに。四面楚歌の状況ですね。 優しく囁いてくるリゲルに、ルクレツィアはどう…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ