【15】 侯爵令嬢、予備審問会に出席する
王城の大広間にて予備審問会が始まった ──
出席者はルミリア王国の国王アルネルド三世陛下、宰相リカルド・ガストン公爵、宰相補佐ギリーズ・ナミエ伯爵、書記官二名、神殿からはコーネリア聖女長。
告発者であるカイン第二王子とティア・ローライド。ティア側の参考人としてティネス・ローライド侯爵夫妻。
そして、被告発者であるルクレツィア・ローライド。ルクレツィア側の参考人としては、元侍女の代表であるフローラが呼ばれている。
ルクレツィアが国外に追放されると、すぐに侍女たちはローライド侯爵家から暇を出されていた。
ルクレツィアとフローラは、予備審問会の始まる直前に顔を合わせた。
「お嬢様……!」
ルクレツィアを見るなりフローラは、ハンカチを握りしめながらはらはらと涙を流した。
「ご無事で……よかった!」
顔をくしゃくしゃにして声を詰まらせるフローラを、ルクレツィアは愛情を込めて抱きしめる。
「フローラ……心配をかけてしまってごめんなさい。あなたは元気だった?」
しばらくは言葉にならずに、ただうんうんと肯くだけのフローラも「お嬢様も……お元気そうで……」と、ルクレツィアをしっかりと抱きしめた。
「でも少し……お肌が陽に焼けて……。お顔の色がよくなりましたよ」
泣きながら微笑むフローラに、ルクレツィアの紅い瞳からも溢れた涙が頬を伝う。
一方で宰相と宰相補佐、コーネリア聖女長、それぞれの書記官たちを間に挟んだ、反対の陣営に位置するカイン第二王子とティア、ローライド侯爵夫妻は眉をひそめて、その光景を苦々しく見ていた。
彼らにとっては、ルクレツィアを即日に追放処分としたカイン第二王子の判断は英断であった。今さらこんな予備審問会を催すことを望んではいない。しかし、国王であるアルネルド三世からの王令とあらば、出席しないわけにはいかなかった。
「この予備審問会は裁判の必要性の有る無しを精査するために、公にはされずに開かれるものとする」
宰相からはそう説明される。
なにしろルクレツィアの追放処分は、国王陛下夫妻や宰相、王太子たちがそれぞれに外遊に出ている間に、ティアの一方的な証言だけを基にしたカイン第二王子の独断だ。正式なものではない。
本来の魔女裁判なら、証人も複数人は必要となる。物的な証拠 ── 悪魔との取り引きの証である身体につけられた紋章 ── の確認もなかった。
その上にカイン第二王子は国が決めたルクレツィアとの婚約も勝手に破棄を宣告している。
宰相にとっては、そのことを国としてどう対応するかも悩ましいところであった。最終的な判断は、国王であるアルネルド三世がすべての責任を負うとしても。
「あの日はなぜだか眠ることができなくて……外の夜風に当たるために部屋を出たのです。お姉さまの部屋の前を歩いていると、部屋の中から男の人の声が聞こえてきました。お姉さまはカイン第二王子殿下の婚約者でありながら、はしたなくも部屋に男性を連れ込んでいたのです。そんなことをなさるなんて……淑女としても信じられませんでした。あまりにもカイン第二王子殿下がお可哀相です。そこでお姉さまを諌めようと思いきって部屋の扉をそっと開けました。そうしたら……言葉にするのもおぞましい! お姉さまは夜中に悪魔を召還だしていたのです……!」
ティアは青い瞳に涙を溜める。その時の恐怖を思い出すようにして、最大級に悲痛な表情をつくり、宰相とコーネリア聖女長に向けた。自らの身体を両手で抱き、震えている。
カイン第二王子のためにルクレツィアの所業を告げた。ティアはそう演技をした。
カイン第二王子とローライド侯爵夫妻は、震えるティアを両脇で支える。カイン第二王子はきっとルクレツィアを睨み付けた。憎悪をまったく隠そうともしない。
(ティア……劇場の舞台にでも立っていたのなら、一廉の役者にでもなっていたでしょうに)
ルクレツィアは彼らを醒めた眼差しで眺めていた。
ティアの証言に続くのはカイン第二王子。
「ルクレツィア嬢は私と婚約をしていた当時から、お互いを理解しようとする様子さえなかったのです。その証拠に私が侯爵邸を訪問しても、いつも顔さえも見せなかった。ティア嬢はそのことにも私を心配して気遣ってくれていました。聞くところによるとルクレツィア嬢は日頃から、異母妹であるティア嬢につらく当たっていたとのこと。この度のことも今までの行いから察するに、ティア嬢を疑う余地はないと判断をしたのです。有害な魔女は即刻に国から追放するべきだ!」
カイン第二王子の発言を聞いたフローラは「なんてことを……」と、怒りに震えた。
「ルクレツィアは気難しい子どもでした。母親であるリヘンツィアの亡き後は尚更に……。私たちはそれでも、ルクレツィアを侯爵家の長子として教育を受けさせました。カイン第二王子殿下との婚約も長子であればこそ。ですが……ルクレツィアは私たちに馴染もうとはせずに、挙げ句の果てには、こんなとんでもないことまで仕出かして家名に泥を塗る始末……。なんとも恐ろしく、情けなく、失望しております」
ローライド侯爵は大袈裟に頭を振る。その隣ではローライド侯爵夫人もハンカチで口元を隠し、ローライド侯爵の言葉に肯いた。
書記官たちはそれらを黙々と書き記す。
「お嬢様……フローラたちがついております」
怒りで顔を紅潮させたフローラは、ハンカチを強く握りしめた。
宰相は「それでは」と、ルクレツィアに話すように促した。
「わたしは悪魔を召還だすなどしておりません。ティアの語ったことはすべて作り話です」
「ルクレツィア……! 貴様は性懲りもなく! まだティアが嘘をついていると申すのか!」
怒りに任せたカイン第二王子が怒声をあげた。
「カイン第二王子殿下。ご静粛に。今はルクレツィア嬢の陳述でございます」
まだ息も荒く身を乗り出しているカイン第二王子を宰相は制した。ルクレツィアに「続きを」と合図をする。
ルクレツィアは肯き、カイン第二王子を見据える。
「悪魔を召還だしたのは、わたしではなくティアです」
「なっ……!?」




